第2期トランプ政権も3ヶ月が過ぎて、性質がだいぶ見えてきた。これまで色々な人が、トランプ大統領やトランプ支持者の関心を、持論に牽強付会しようと努力してわけだが、そろそろ実際のところを認めるべきだ。
トランプ政権の極端な主張がブラフに過ぎないなんてことは無かった。彼らはテクノクラート*1嫌いで、反ウォーキズム*2はその反官僚主義の一部でしかなく、ラストベルトの代弁者と言うのは幻想だ。専門知の意義を認めないところが、政権の方針になる。
反ウォーキズムだけであったら、多様性・公平性・包括性(DEI)政策の一部見直しで済む。しかし、白人至上主義な面を隠さない。ラストベルトの代弁者は、公共投資、社会保障関連費*3や公衆衛生予算*4、低所得者への給付削減を目指さない。富裕層の減税もだ。孤立主義を目指していると言う話も、中東の軍事紛争に関与し続けているし、宇露の仲介役を買って出ているのでおかしい。インテリジェンスの軽視も指摘される*5。
連邦政府の官僚(とこれまでの政治家)が推し進めてきた事を、片っ端からひっくり返そうとしている。戦後のアメリカ政治は、共和党も民主党も徐々にソーシャル・リベラリズムを実現する方向にあった*6。また、歴史的に州の裁量が大きい国体の中、徐々に連邦の権限を拡大してきた。アメリカの州は人口や経済がバラバラで、大きな格差が出来てしまう。それを埋めるために連邦政府の権限が拡大してきたわけだが、それを推し戻そうとしている。
官僚に対する不信感があるのはおかしい事ではない。日本でも財務省解体デモがあるが、官僚の提案する政策は面白くないものだ。そして、官僚に専門知識があると言っても誤ることがあるし、彼らも不正や手抜きをすることもある。信じたくない気持ちも分からなくもない。だが政府政策にある不愉快さの根源が、官僚にあることは稀だ。望ましくない現実に何とか対処する施策だったり、本当は政治主導で官僚が方針を定めたことではないことの方が多い。
専門家の言うことが面白く無いので、オルタナティブ・トゥルースを信じる*7。テクノクラートが作り上げてきたアメリカを否定し、新たなアメリカを構築したい。叛逆することが目的なので、行動と帰結の関係は考えない。トランプ支持者の心理はこういうものだ。トランプ政権は、このコアな支持者に応えようとしている。3ヶ月間の破壊的な施策を見る限り、トランプ大統領自身も多分に同じ欲求を抱えている。支持者をなだめつつ穏当な政策を模索しているわけではない。
帰結を考えてもらうにはどうしたらよいであろうか。有権者に帰結を味わってもらうしか無さそうだ。共和党の重鎮はそう考えているらしい。連邦議会が団結すれば大統領に対抗できるが、共和党議員がトランプ政権と対決すれば、共和党の議席数が大きく減少する蓋然性は高い。しかし、連邦政府の統計部門も機能を停止しつつある。州レベルの統計をつなぎ合わせるか、市民の体感でしか経済情勢が分からなくなり、オルタナティブ・トゥルースの影響力がより増している。
破壊された専門家の組織を再構築するのには時間がかかる。テクノクラートにも人生があるので、解雇されれば新たな職を探して四散してしまう。就職先がなくなれば、その道に進む若者も減る。トランプ政権のこのやり方が任期満了まで続けば、復旧に何年かかるか分からない。連邦議会がトランプ政権を止めなければ、アメリカ史の流れが大きく変わることもあり得る。
*1政策や行政に関して専門知識を持つ官僚機構。
*2ウォーキズムは、この世に人種的偏見や差別があふれており、それに対抗していかねればならないという意識に目覚めた人々の思想である。
*3トランプ大統領はメディケイド(医療扶助事業)とメディケア(高齢者および障害者向け公的医療保険制度)を削減しないとする一方、政府効率化省を率いるイーロン・マスク氏は社会保障給付金の削減を目指すと公言している。
*4FDAとCDCの人員削減が行われ、既に業務(鳥インフルエンザ対策)に支障が出ていると報道されている。
*5CIAやNSAへの介入や人員削減がある。
*6『アメリカの政党政治 — 建国から250年の軌跡』で、アメリカの分断を理解しよう
*7トランプ大統領が山ほど嘘や無根拠な話をしているのは周知だが、支持者に咎められない。むしろ好んで請け売りされている。
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