2025年4月14日月曜日

アメリカの製造業者の雇用が激減したのは共和党ブッシュ・ジュニア政権のときで、北米自由貿易協定に調印したのは共和党ブッシュ・シニア政権だよ

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アメリカの共和党支持者や民主党左派の間では、民主党主流派がウォーキズムに傾斜して製造業労働者を省みなくなったという物語が人気だ。

バイデン政権は製造業雇用の促進や労働争議の仲介などに熱心であったので事実に即しているとは言いがたいのだが、民主党から製造業労働者を引き剥がしたり、ウォーキズムを牽制したりするのに便利なナラティブなので繰り返されている。

政治的なナラティブから事実を推察しようとする癖がある日本の「保守」論客がこれにまんまと騙されてしまって、製造業労働者が民主党に愛想をつかしたので、アメリカの民主党は大統領選挙に負けたと信じ込んでいるようだ。大統領選挙でトランプ大統領が返り咲いた理由が自分が嫌いな物であってほしいというバイアスもあるのだろうが、歴史的には共和党が自由貿易の拡大を志向してきたし、共和党政権のときに製造業労働者は激減している。

過去30年間の製造業従事者の推移を見てみると、共和党ブッシュ・ジュニア政権(2001年1月–2009年1月)のときに35%ほどと激減し、他の政権のときは横ばいか微増となっている(上図;前田(2024)の図表5に政権名を書き加えた)。民主党クリントン政権のとき1994年に施行された北米自由貿易協定(NAFTA)が原因で、共和党の責任ではないという主張もあったのだが、NAFTAに調印したのは共和党ブッシュ・シニア政権のとき1992年であった。NAFTAが主因だとすると、その影響が施行後6年間無いのも謎だ。

民主党がラストベルト労働者から恨まれるべき理由は乏しい。実際、鉄鋼や自動車の労組は前回の大統領選挙でも民主党を支持しており、ラストベルト労働者が民主党を恨んでいるとは言いがたい。新自由主義と非難されたレーガン政権からの共和党を恨んでいる方がありそうだ。アメリカの製造業は1980年頃をピークに衰退しはじめている。アメリカの賃金水準の上昇や新興工業国の出現によるもので、厳密には共和党の責任であるとも言い難いが。

ブッシュ・ジュニアのときに激減したのは、2001年のインターネットバブルの崩壊で、工場の海外移転が加速したためだ。リーマンショックのときも急激に減少している。

民主党が製造業労働者の支持を維持しているのであれば、大統領選挙に負けなかったのではないかって? — 1979年に22%あった労働者に占める製造業の比率は、2019年には9%まで低下している。アメリカ国内の産業立地にも変化があり、北部ラストベルトは工業地帯としての比重を低下し、共和党が強い南部サンベルトの比重が増している*1影響もありそうだが、ラストベルト労働者は民主党の強い味方では無くなってしまった。

*1前田(2024)に詳しく説明されている。

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