2025年4月12日土曜日

動画配信者の皆さんが注意するべき名誉毀損と侮辱に関する裁判所の考え

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根拠の薄い憶測を、事実であるかのように言って誰かの社会的信用を失墜させると、名誉毀損になる。

当たり前だろうと思うかも知れないが、動画配信者の皆さんには共有されていない事実のようなので指摘しておきたい。実際、ここ数年間、動画配信者の皆さんが侮辱や名誉毀損で訴えられて敗訴する事件が続いている。

1. 広く報じられた不法行為認定

2023年に、あいちトリエンナーレ2019の企画展に関して、日本保守党の百田尚樹氏が「反日組織に利用されたのだろう」とツイートし、有本香氏がコラムで補助金詐欺の疑いと書いて、芸術監督を務めた津田大介氏を両者をそれぞれ訴え、名誉毀損が認められた裁判があった。

2024年に、一般社団法人Colaboと代表の仁藤夢乃氏が、「生活保護不正受給」「少女をタコ部屋に住まわせている」といった事実無根の内容を拡散されたとして損害賠償と記事の削除などを暇空茜氏に求めた裁判で、暇空茜氏に賠償と記事の削除を命じた(「暇空茜」氏敗訴 合計220万円の支払い命令 対Colabo訴訟(小川たまか) - エキスパート - Yahoo!ニュース)

2025年に、一般社団法人Colaboと代表の仁藤夢乃氏が、動画で脱税や詐欺、貧困ビジネスや私的支出などの虚偽の事実の摘示及び侮辱を行ったと音無ほむら(エコーニュース)氏を訴えた事件には、異例の高額賠償命令が下された(「Colabo名誉毀損裁判」で385万円の“異例の高額賠償”命令…ネット空間で深刻化する「社会が壊れる危険」 | 弁護士JPニュース)。被告は意見論評と主張したが、通常人の視聴者にはそうだと分からず事実の摘示になると判断された。

2. 判決の傾向

判例では、意見論評であれば不法行為にならない一方で、これらの判決では、客観的な根拠や裏付けを示さないなど、論理を明らかにせず事実の摘示にあたることを言い放つと意見論評として認めてもらえないことが分かる。

推論が誤っていても、推論だと分かる分には不法行為とは看做されない*1わけだが、地裁も高裁も「○○○○の疑い」と言うような逮捕報道に見られるような表現では、通常人には事実の摘示になると判断している。

3. 不当判決と罵るだけではなく対応していこう

判決のブレはある。しかし、ブレがあっても理屈としては一貫性がある。端的に言えば、通常人が真実だと誤認する表現を避ければ、不法行為に問われる可能性は低くできる。もちろん、これはなかなか悩ましい。動画配信者は再生回数を増やしたいので、誤認させたい誘惑がある。ギリギリを狙う必要があるわけで、境界がどの辺りにあるのか把握に勤めるしかないが、今度は動画配信者というだけで裁判官の心証が悪くなりそうだ。

*1地裁の表現であるが「推論の過程やその内容に,仮に論理的とはいえない推論が含まれていたり不合理な点があったりしたとしても,合理性についてまで判断する必要はない」とされる。

*2具体的で、証拠で真偽が判定できる主張が事実の摘示になる一方、通常人が見て直ちに比喩だと分かる場合は、意見論評だと解釈することにはなっている。実際、アホやバカは(批判する言動が明確であれば)意見論評とされてきた。

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