日本の裁判所は、法律の条文は守っているが、法律の趣旨を守ろうとしていない行為も、不法や違法だと認定する傾向がある。
契約においては信義誠実の原則が重視される。消費者が契約の隅々まで読みそうに無い金融契約やソフトウェア利用許諾書の細かい内容は有効にならないことが多く、経営者や人事部の労働法ハックが薙ぎ払われることもあり*1、無理がありそうな不公正商行為認定もある*2。
消極司法と言われるが、判例が立法の先に来ることが多い。上述の例だと消費者契約法(とその改正)*3や改正労働契約法*4が後に続いている。不同意性向等罪(強姦罪,強制性交等罪)も判例が先行している。日本は急いで成文法を整備した明治維新のときからの伝統で、法律の具体的な運用を裁判官に任せているため、こういう事がおきる。行政が回らなくなるような判決は避けているので消極司法だが*5、非法曹が思っているよりずっと積極的だ。
近年の傾向ではない。判決の傾向に変化はあるが、おそらく1970年代ぐらいから徐々にソーシャル・リベラリズム化してきている。最初の違憲判決は1973年であるし、強姦罪の適用などもその頃から範囲が広まってきた。侮辱や名誉毀損の認定が厳しくなっていると言う批判もあるが、少なくとも1990年代後半からの裁判例とかけ離れていると言うわけではない。外形的に疑問がある判決はあるが、それらの多くは本心は侮辱を目的としていることや、意見論評に見せかけた中傷になっていることは否定し難いものだ。
是非はあると思う。型式だけではなく本質、被告(と原告)の意図を重視すると、小賢しい悪人に罰を与えることができる一方で、判決の予測可能性を下げる。意図と言っても裁判官がそれらしいと認定するものなので、真実相当性はあっても真実を捉えるかはわからないからだ。しかし、近年の傾向ではない。日本国に居住する場合、日本の裁判所の判決の傾向は覚悟すべき。
反リベラルの敗訴を観て日本の司法がリベラル化していると批判している人々がいるのだが、これまでの判決の傾向をよく理解していないきらいがある。
*11974年の東芝柳町工場事件の最高裁判決では、有期労働契約でも反復更新により実質的に無期になっていた場合は、無期契約と同様と看做すと判断が下されている。
*2Yomiuri On-Line見出しの無断利用裁判(2005年10月6日判決)では、見出しが著作権法の保護に無いことを認めつつも、見出しが他に有償提供されており、また営利目的で反復継続して無断利用された事実などから、不法行為(民法709条)を認めた。ただし、代金の支払いを命じるものであり、無断利用の停止は命じていない。
*3例えば、霊感商法を不法行為とした初期の判決は1989年2月27日に出ているが、霊感商法を不法行為とする改正消費者契約法は2023年1月5日施行である。
*5例えば自衛隊の合憲性については議論を回避している。
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