2025年3月25日火曜日

中国人が医療費削減ライフハックとして、日本の国民健康保険を使うのは困難なので

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

中国人が日本の社会保険制度を悪用していると言う話が「保守」界隈でよくされている。しかし半分は陰謀論だから、官公庁がしっかり仕事しているか監視するのに留めよう。過去事例では入管が雑な仕事をしているのに付け込まれて、悪用されている。

2011年に中国人48名が来日直後に生活保護申請をして認められた事例では、48名が本来は定住者の在留資格を認められない状況を正直に申告したのにも関わらず、入管が在留を認可してしまっていた。問題が発覚してから生活保護の支給を打ち切り、特定活動に在留資格を変更したわけだが、入管は書面審査すらまともに行えていなかった。

ここ数年、病気になってから経営・管理ビザによる入国し、国民健康保険の加入することで、治療費を節約している中国人がいないか疑惑がもたれている*1。2012年からは来日後、3ヶ月以上の滞在見込みがあれば、国民健康保険に加入することができるので、従来よりも国民健康保険に加入しやすくなったためだ。しかし、この医療費削減ライフハックの成立条件はかなり厳しい。

1, 厳しい経営・管理ビザの取得条件

経営・管理ビザは、2015年4月1日に設けられた、投資・経営ピザの条件を緩和したものだ。資本金500万円以上で法人を設立するか、2名以上の従業員を雇わなければいけない。そして、事業所があり、そこで経済活動が行われていることが条件になる。一部の社労士が容易に取れそうなことをアピールしているが、事業所での経済活動が要求されていることに注意が必要だ。また、申請から取得まで3ヶ月以上かかる。

代行業者が事業実態を誤魔化し、不正に経営・管理ビザを取得している可能性もあるが、不正がばれると在留資格を喪失することになる。このリスクはかなり大きい。また、病気になってから経営・管理ビザをとるのも困難だ。治療を受けるまで何ヶ月もかかることになる。自分か家族に既往症がある患者でないといけない。

2, 中国にも医療保険制度がある

中国にも医療保険があり、上限が200万円から600万円になるが、治療費は概ねカバーされる*2。典型的なお金のかかる既往症の人工透析の自己負担は1割以下だそうで、来日すると赤字になる。医療費だけならば得になることもあるだろうが、渡航費用や新生活にかかる費用を考えるとかなり厳しいはずだ。日本で遊んで暮らせるレベルの富裕層が悪用しているような話になるわけだが、そこまでの富裕層であればそんなに医療費に神経質にならずに済みそうである。

3, 母国を離れて生活しないといけない

経済的な問題を除いても、縁も所縁も無く、言葉の通じない日本で生活をはじめるのは、かなりの負担だ。一般的には国外移住は、組織的なサポートが得られる留学や海外赴任、特に留学を通して行われる。医療費削減ライフハックとして日本移住が注目されているのは、かなり奇妙だ。中国語で症状を説明しても、医師は理解しない。中国人客で賑わっている中国人医師でもいるのであろうか。

4, 代行サービスの謳い文句に過ぎないのでは?

何が起きているのであろうか? — 中国から逃げ出したい金持ちに対するサービス業の皆さんが日本の国民健康保険をアピールしている。おそらく、それだけだ。

日本人の配偶者がいる、商社か飲食店経営で日本にいる中国人経営者などで、偶然、国民健康保険でお得になっている人々もいるとは思う*3。その中には、海外の医療保険ではカバーされない難病患者もいるようだ。しかし、それらは例外で、中国の医療保険より日本の国民健康保険が遥かにお得と言うことはない。経営・管理ビザを不正取得してまで利用するのは、デメリットもリスクも大きい。

国外に移住したい中国人はある程度いる。しかし、それは政治的、文化的な理由だ。本気で移住を考えれば、社会保険のことも検討するであろうが、第一の理由にはなかなかならない。産経新聞のインタビューに応じた経営・管理ビザを悪用している中国人も、「これ(経営管理ビザ)で家族が安心した生活ができ、子供も日本の教育を受けられるんだよ」と、医療費負担の削減を理由にあげていなかった*4

5, 在日外国人全体は、国民健康保険の維持に貢献している

なお、厚生労働省によると、国民健康保険による診療件数や支給額に占める在日外国人の利用割合は、国民健康保険の非保険者数に占める在日外国人の割合よりも低い*5。高齢者が少ないためだ。外国人技能実習生などは、高齢者になる前に帰国する。国民健康保険で得をした在日外国人もいるとは思うが、大きな数ではない。

*1中国で話題「日本で会社作れば、医療タダ乗り」、保険診療天国ニッポンの落とし穴 | China Report 中国は今 | ダイヤモンド・オンライン

*2中国の公的医療保険制度について(2018)-老いる中国、14億人の医療保険制度はどうなっているのか。 |ニッセイ基礎研究所

*3高額療養費制度を利用したことをSNSで自慢した中国人がいたらしい。中国では200万から600万円の上限を超える部分は自己負担になるので、得になったのかも知れない。

*4中国の管理・監視嫌い、中国人富裕層「日本へ」 経営管理ビザ悪用 侵食~「移住」 - 産経ニュース

*5厚生労働省保険局「在留外国人の国保適用・給付に関する実態調査等について」令和元年によると、2017年で加入者数の3.4%を占めるが、件数で1.29%、医療費で0.99%を占めるに過ぎない

0 コメント:

コメントを投稿