2021年10月18日月曜日

OECD加盟国に限っても、ジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率に正の相関はないよ

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ジェンダーギャップ指数はかなり癖がある指標で*1、何かの分析で使うのにはお勧めできないのだが、先進国において「ジェンダーギャップ指数が高い(男女格差が少ない)ほど、出生率は高まる傾向」などと言い出す人々をぽつぽつと見かけるようになった。そんな話を請け売りしている社会学の大学教員もいるのだが、そんな傾向は明らかには観察されないので指摘したい。

1. 内閣府の資料の問題点

冒頭の引用は内閣府政策統括官(経済社会システム担当)作成資料からなのだが、先進国という出生率が低い国を集めたサブサンプルの傾向はただの偶然であることが往々にあるし、そもそも先進国もごく一部ののデータだけで議論していて恣意的な分析になっているし、さらに選んだごく一部の国の傾向すら主張を支持していない。

フランスとイギリスと韓国はジェンダーギャップ指数が上昇したのにもかかわらず合計特殊出生率は下がっているし、日本とデンマークはジェンダーギャップ指数も合計特殊出生率もほとんど変わっていないし、スウェーデンはジェンダーギャップ指数は同じで合計特殊出生率が下がっているし、ジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率が下がったアメリカと、ジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率があがったドイツしか、主張を支持していない。他の2つのプロット「ジェンダー・ギャップ指数(管理的職業従事者の男女比)と合計特殊出生率との関係」と「ジェンダー・ギャップ指数(同一労働における賃金の男女格差)と合計特殊出生率との関係」も同様。

なお、2021年時点でのOECD加盟国38か国の2006年からのジェンダーギャップ指数の変化と合計特殊出生率の変化をプロットしても、ジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率の関係は特に何も言えない。負の相関がありそうだが相関係数は低いし、回帰分析をしても係数に統計的な有意性は無い。

2. PRESIDENT WOMAN Onlineの記事の問題点

昨日、話題になっていたのはPRESIDENT WOMAN Onlineの認定NPO法人フローレンス代表室の前田晃平氏の記事*2だが、これも先進国もごく一部のデータだけで議論していて恣意的な分析になっている。

「ジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率の間には相関関係があります」とはとても言えない。さらに、この記事のグラフを転載して「少なくともOECD諸国では、ジェンダーギャップ指数と出生率には正の相関がある」と主張していた人がいたのだが、先進国にカテゴライズされることが多いOECD加盟国は現時点で38か国あり、38か国のデータで回帰すると以下のようにほとんど説明力を持たないことが分かる。ジェンダーギャップ指数の係数は統計的に10%有意で非ゼロでは無かった。

間違いなく自明な関係はない。何かの潜在変数をコントロールするなりしたら何かの関係を見い出せる可能性は否定できないが、この手の分析は厳密にやると何も言えなくなることの方が多いので、望みは薄い。自説に何でも牽強付会したい人々もジェンダーギャップ指数のことは忘れて、他の数字を調べることをお勧めしたい。

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