2018年12月13日木曜日

社会学者は、違憲や違法と批判的レベルの理屈にならない運動家節を唱えるのをやめるべき

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差別などを無くすための理由付けとして、それが違憲や違法と言い出す人々は少なくない。倫理学者ヘアの言う直観的レベルでは法律は守るべきだと言えるので、一般にその主張がおかしいとも思わない。しかし、この論法だと、合法だから正義、悪法も法と言う理屈も通ってしまう。法律や制度が倫理に叶っているかは、批判的レベルで検証せざるをえない。

とくに社会科学者は法律の制定や改正を求める立場なのだから、批判的レベルで自己の主張の正当化ができるはずである。違憲や違法だから不正と言う論法を駆使するのは、学問的に不誠実な議論だ*1。しかし、こと差別に絡む文脈において、ネット界隈の社会学者の不誠実さは目に余るときがある。

1. 医学部入試における女性差別は違憲や違法だと確定した?

一昨日も社会学者の山口一男氏が「女性差別は憲法14条及び教育基本法4条に反する行為である」から、医学部の女性差別は不正であると糾弾していた*2のだが、やはり規範的な根拠付けが弱すぎである。行政や司法が同意してくれないと論理が破綻してしまうのだが、判例もないので違憲や違法になるのかが明確ではない。過去の判例を見ると、憲法14条1も教育基本法第4条も私人に対して直接適用されるものではなく、民法90条で公序良俗に反するか否かが問題になっているし、男子校や女子校の存在や、都立高校などで実施されている男女別定員などを参照すると、公序良俗に反すると断言するのは難しい*3。山口氏自身も以前のエッセイで、林文部科学大臣の言を紹介しつつ、『「募集要項」に記述があり、「目的が適切」なら良いととれる』と自分で解釈し、「政府はこの点自らの見解を憲法や教育基本法との関係においてまず明らかにすべき」と自ら法解釈が不明であることを宣言している*4。また、8月8日から12月11日までの4ヶ月間で、議論を先鋭化させるべき発見があったとも記されていない。

2. 普遍的な不正を定義するか、帰結主義の立場で論証するか

普遍的な不正を定義した上で、医学部入試における女性差別の問題点が明確化されているわけではない。そもそも違憲や違法と言う主張を除けば、何を不正と定義しているのかも良く分からない。山口氏は浪人生差別は「どのような社会が望ましいかに関する価値観に依存」と留保しているし、地域特別枠は「応募基準における透明性の欠如の問題であり、不正の問題ではない」としているが、批判的レベルで女性差別と一貫した倫理を維持できているのであろうか? — 文科省見解では、今回の医学部入試における女性差別の法令上の問題は、応募基準に明記していないことだけだったはずだ。

帰結主義の立場で、男女差別の解消が追加の社会コストに見合うものだと論証されているわけでもない。医学部入試における女性差別は、既婚後の女性医師のパートタイマー化や希望部局の偏りが理由であり、それらは当直・救急対応・オンコール対応の忌避が遠因になっている事が、医療現場から指摘されている*5。病床数の削減や、24時間運営している院内保育(病院内の医師・看護師用の保育施設)の充実、報酬制度の見直し、そして医師養成数の増加などの社会的費用の増加なくして、ただ闇雲に女性医師の養成数を増やしたらどうなるであろうか*6

山口一男氏の議論は、規範的な議論を深めるのをさぼって、安易に違憲や違法やら左翼節を借りてきているように思える。社会学には規範的な議論が欠如しているし*7、また往々にして文化多様性を尊重するために道徳相対主義の立場をとるので、言うに困っているのは分かる。しかし、だからといって無根拠な正当化が許されるわけではない。

*1法学であれば、まさに学問の核心であって、誠実な立場であろう。

*2RIETI - 再び医科大学・医学部の入試差別問題について―異質な問題は区別して考えるべきである

*3関連記事:大学の男女別定員は違憲・違法か?

*4RIETI - 東京医科大学の入試における女性差別と関連事実 ― 今政府は何をすべきか

*5関連記事:東京医科大学は、開き直って統計差別を続けるべき女性医師に配慮すればするほど病院の職場環境は悪化するので、別の施策がいる男性の家事・育児参加を促しても、女性医師の増加による当直不足の問題は解決しない

*6欧米では女性医師が増えても問題は起きていないと言う指摘がとび勝ちだが、欧米でも女性医師の増加による問題が指摘されている(Part-time women doctors are creating a timebomb — Telegraph)し、国際比較すると人口あたりの医師が少なく人口あたりの病床数が多い日本の医療について無視することはできない。

看護師はうまく回っていると言う指摘もよくされるが、なぜか日本は人口あたりの看護師数は少ない方ではなく、看護師は医師の5倍いるので1人に何かあったときに分担対処しやすく、さらに医師より交渉力が弱いので有無を言わさず夜勤に放り込みやすいので、看護師の勤務態度を女性医師に当てはめることができない。

*7関連記事:空っぽのリベラルの心に魂を埋めるために

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