2018年8月8日水曜日

男性の家事・育児参加を促しても、女性医師の増加による当直不足の問題は解決しない

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女性医師が結婚後も仕事を続けるには、当直・救急対応・オンコールの負担を与えないことが肝要なことはよく認識されていて*1、女性医師の比率を抑えるべきだと言う主張の根拠になっている。これに対して男性の家事・育児参加を促せば、既婚女性医師も業務負担を増やせる言う主張*2があるのだが、簡単な計算によって逆に状況が悪化する可能性が高い事が分かる。

現在の女性医師の割合は2割程度、医学部入学者で見ると3分の1が女性だ。現在、8割は男性医師であり、将来的にも3分の2は男性医師となる。医師の生涯未婚率は男性が2.8%、女性が35.9%と言われる*3。ここで男性の家事・育児参加を促し、女性の負荷を一定程度減らし、男性の負荷を一定程度増やそう。男女比と生涯未婚率の差から、医師が外部労働に割ける総労働時間は低下する。男性が1時間家事・育児負担を負い、女性が負わなくなるとすると、医師の労働供給は全体平均で26分ぐらい減る。

生涯未婚率がこのままであれば、女性医師が6割を超えればプラスの効果を発揮するようになるが、当面はそんな事は無さそうだ。男性医師はそのままで、女性医師の夫だけが家事・育児参加をするようになれば、今でも効果を発揮する理屈になるのだが、現実には釣り合いからか女性医師の結婚相手は忙しそうである。実際、2016年には夫が医師の比率は4割強まで落ちてきているとは言え、結婚相手には医師が多い。高い生涯未婚率に関わらず、30代女性医師の2割以上がパートタイムでもない未就業なのだが、それだけ夫の稼ぎが良いのであろう。

男性の家事・育児参加は綺麗ごとで言いやすいクリシェではあるのだが、これが状況の改善をもたらすとは限らないという事だ。家事や育児のアウトソーシングの促進の方が現実的で、24h/7d子どもを預かってくれて、保護者は休日だけ会いに行けば良いという育児代行サービスがあれば随分と状況は改善される*4のだが、ちょっとアグレッシブ過ぎるのかそういう要望は出て来ない*5。女医の比率が高い欧州の福祉国家がやっているように、医療アクセスを制限し、病床数を減らすか、受益者負担の増加覚悟で医師の養成数を増加させる方が、まだ人気の施策のようである。

*1常勤勤務を避けた女医が挙げるその理由の上位に、当直・救急対応・オンコールが挙げられている(卜部 (2018)「滋賀県女性医師ネットワーク会議、滋賀県女性医師交流会での働き方改革の取り組み」勤務医ニュース,75号)。

*2「女性医師では回せないと言うなら、回す努力をしましたか?」 日本女性外科医会代表が問いかける

*3男性医師と女性医師でこんなに違う!生涯未婚率を考える|joynet(ジョイネット)

*4さらに人工子宮が実用化されれば、男女の生涯の労働供給はほぼ同一になる(【解説】人工子宮をヒツジで開発、ヒトに使える? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト)。

*5ここまで極端なものはないが、もっと積極的にアウトソースすべきと言う意見はあった。

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