2016年10月18日火曜日

SYNC: なぜ自然はシンクロしたがるのか

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物理などの自然法則は微分方程式でモデル化されて来たが、非線形になると数学的に解くのは困難になる。しかし、ここ何十年かの間、定期的に非線形系が流行る傾向はあって、1970年代にはカタストロフィー理論、1980年代にはカオス理論、1990年代には複雑系理論が流行ったので、名前ぐらいは知っている人は少なく無いであろう。もっとも、名前だけ知っているが、中身はカケラも知らない人は多いと思うが。そんな人々のための本があったので読んでみた。

SYNC: なぜ自然はシンクロしたがるのか」は、応用数学者のストロガッツが同期現象を軸に非線形系の研究と、研究成果を生まれるまでの紆余曲折が紹介してある本だ。ただし、数式などは無いが、非物理学徒は読むのがちょっと大変かも知れない。不安定な床で複数のアナログのメトロノームを走らせると同期する現象の仕掛けぐらいは知っておいた方が楽しめると思う。

所々、数学的にハイコンテクストな箇所がある。読み飛ばしていけば良いのだが、微分方程式が解けるという事、つまり可積分が何なのかどころか、多様体についても知っておかないと話が分からないだろうなと言うところが所々ある。同期しない領域は縮小写像の不動点だから一点からなり、つまり測度ゼロのような話が、そうとは見えないように書いてある。なお、後半の三次元における同期現象の分析には、位相幾何学を使ってある事が堂々と書いてある(P.374)ので、一般向けに表現を工夫する努力が維持されているわけではないようだ。また、ウィーナー過程やジョセフソン素子などの単語が分からない人は、ノーベル賞受賞者とは言え、登場人物の凄さがイマイチ分かりづらいかも知れない。

同期現象を説明する数理モデルの発展の話は、かなり興味深いものだ。二つの個体の同期しか説明できなかったぺスキン・モデルを、著者らが何とか三つ以上の個体の同期にも拡張してホテルの発光現象を説明できるようになった話は、モデルの拡張が容易にできると勘違いしている人には是非読んで欲しい。幾何と書いてあって多様体とは書いていない奥ゆかしさが微妙だが、そうは簡単に理屈は広がらない。ウィーナーの部分同期とウィンフリーの相転移と言う発想を統合した蔵本モデルについては、かなり詳しく紹介されていて(P.105--112, P.303--306)、しかもちょっと誉めすぎなので、ついついどんなモデルか検索して確認してしまった。渡辺辰也氏がジョセフソン・アレイの数理的解析から新たな可積分系を見出したり(P.301)、この分野では日本人の数理能力は光っている。

数理モデルの話が延々と続くのかなと思う所もあったのだが、この世のあちこちに見られる同期現象の紹介が軸であり、研究の紆余曲折や著名研究者の人物伝のような話も多いので、そう堅苦しいわけでもない。ノーベル賞を取ったあとに疑似科学に傾倒したと言うジョセフソンが、意外にまともな人だった・・・院生時代に公然とノーベル賞2回受賞者のバーディーンと言い合うぐらいだから、やはりそうでもなかった。著者の研究体験の話も豊富で、私なら絶対に見落とすなと思うような、ラスタ・プロットを睨んで睡眠周期と体温周期の相関関係を見つける話がかかれている(P.152)のだが、優秀な研究者なら何かの共感が得られるかも知れない。

カオスを定義する特徴(P.333)のような基礎知識の説明もちょいちょいとあって、一見、ランダムに見えるが、実は決定論に従うので短期予測は可能、しかし些細な擾乱が指数関数的に影響が大きくなっていくので、長期予測不可能などと言うように知識もつく。読んで分からないことは、検索していけば良い時代だ。カオス理論に従って左右に動く水漏れをしているマルカスとハワードの卓上水車の話(P.328--333)を読んでも実感が沸かなかったので、検索してみたら、しっかり動画が公開されていた。

第8章の化学的に色が様々に変化していくジャボチンスキー・スープ(BZ反応)の螺旋について想像力が働かない人は、以下の動画を見ればよい。これは二次元的だが、三次元の動画もある。

なお、著者のストロガッツのプレゼン動画もTEDで公開されている。本を買わずにコレを観ればよいとは思ってはいけない。

最後の二つの章は社会的なネットワークの話に多くが割かれており、社会科学にバックグラウンドを持つ人も読みやすいかも知れない。理論的に説明しづらい現象の話も所々触れられている。なお、離散的マルコフ過程の投票者モデルで全員の意見が一致する条件の話などは関連していそうだな・・・と思ったが触れられていなかった。二次元までのネットワークでないと同期しないせいであろうか。

著者が関わってきた研究に関連する話が大部分で、結びに、本書で紹介している同期現象は、裾野の広い複雑系のごく一部とあるが(P.512)、それでも内容が多岐に渡っていて圧倒される。ページ数も多めな気がするが。

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