8月は大人気上演中のシン・ゴジラのシーンを枕に現代日本を語ってしまう人々が続出していたのだが、10月に入って落ち着いたようだ。なぜか感想を書いてくれと言う人がいて、そろそろネタバレも許される頃であろうから、シン・ゴジラをちょっとつまらなくする視点を提供したい。石破元防衛相が防衛出動ではなく災害派遣が法的に妥当であると指摘しているが、もっと分かりやすいところにリアリティが無いところがある。それが何かと言うと、距離感だ。距離感が無い。
F-2支援戦闘機からミサイル攻撃をJDAMを投下するシーンがあるのだが、同機に搭載できる93式空対艦誘導弾の射程は100Km以上ある。本当は東京湾上空から余裕でゴジラを攻撃できる。JDAMも射程20Km以上あり、また高高度から投下できる。なぜ、あんなに接近してみたのか。また、増槽タンクを装備していたのだが、どこから飛んできたと言うのであろうか。松島基地からだと400Kmぐらいしかないので、増槽タンク無しで作戦を完了できる。
バンカー・バスターの一つ大型貫通爆弾(MOP)でゴジラに打撃を与えて、ゴジラを本気にさせてしまうシーンだが、ゴジラは上空のB-2爆撃機をガンガン撃墜している。B-2がSpirit of Americaのようなパーソナルネームで呼ばれないのがイマイチであったが、それはさておき、MOPは雲の上、上空10Kmぐらいから落として、落下エネルギーを含めて貫通力を高めた兵器だ。つまりゴジラは10Km以上届く熱線を四方八方に、水平方向も含めて撃っていることになる。東京駅から半径10Kmの円を引くと新宿ぐらいまで含まれる。ここで日本\(^o^)/オワタ
他にもゴジラにエネルギーを使わせようとUAVのグローバル・ホークMQ-9リーパーを大量に展開しているシーンがあるのだが、遠隔操作のために500MB/sの帯域が必要であり、同じ空域にアレだけ大量に飛ばせるものなのかが謎である。ところでお値段が高いので、代わりにB-52でレンジ外の高高度からデコイ・ミサイルであるJSOW(ADM-160 MALD)をばら撒くなりしてコストを抑えろと思ったのは私だけでは無いはずだ。
無人在来線爆弾の爆風もおかしい。あの時点で架線に通電しているのかと言う疑問はもってはいけないのは分かっている。しかし、イラク戦争後の現地でのテロ動画や、オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件では、トラック一台分の火薬で、かなりの広範囲に爆風と粉塵が広がる。在来線1編成15両に搭載できる火薬の量はそれを遥かに超えるわけで、搭載量が明らかにされてはいないとは言え、爆発が小さ過ぎる。
クライマックスのポンプ車の動きもおかしい。土木工事の専門家の溝渕利明氏が「現場にポンプ車のアームが林立していましたが、アウトリガー(車体を安定させるために横に張り出す脚)を展開するにはあんなに寄せてはいけません」と指摘していた。瓦礫が邪魔でポンプ車やタンクローリーなどの車両は接近不能だとか、地下構造物、埋設構造物が多いエリアなのでゴジラが進入すると地盤が崩れるなどのツッコミもある。怪獣映画を作るのは難しい。
ほぼ全ての娯楽作品に共通する所でもあるのだが*1、距離感が無いのでリアリティがイマイチに感じてしまう。旧作ゴジラだけではなく新世紀エヴァンゲリオンのサウンドトラックを引っ張ってきて、爆発音なども昔風にしていたりして特定年代層に媚びた作風だし、そもそも怪獣が歩いている映画にリアリティなどあるわけがないのだが、シン・ゴジラでリアリティを語る人々が一定数いるので何とも言えない後味が残った。作品自体は最高に面白かったのだが。
*1関連記事:ガルパンの戦車の隊列について
2 コメント:
F-2から投下されたのはJDAMで、ゴジラの気を引くために使われたのはRQ-9リーパーだったはずですよ。
ミサイルの件は私も海上自衛隊の護衛艦からのミサイルで大丈夫じゃないかと思いましたが、予算と、あの時点での爆風などによる被害を考慮したものと考えます
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