2015年1月27日火曜日

最低賃金の引き上げを主張する前に

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ある左派リフレ派を自称する女性が、経済セミナーの対談記事を読んで怒っていた。最低賃金が貧困層の雇用を奪っているので、最低賃金を廃止して負の所得税を導入すべきと言う八田達夫氏の主張に対して、負の所得税*1と最低賃金はともに必要だと理由なしに主張していた。

直感的に気に入った政策は、理論や実証抜きでも良いものだと思い込む、昔ながらの左翼の悪い所が出ている。この女性、新古典派経済学の批判も日頃からしているので、新古典派経済学では最低賃金は有害だと結論されていると勝手に思い込むのであろう。そして理屈抜きで、最低賃金の引き上げを主張し続けるのであろう*2。新古典派経済学でも最低賃金が必要となる場合を示せるし、さらに必要になる条件を整理することも出来るのに勿体無い。

1. 典型的な最低賃金の有害性への理解

最低賃金が高すぎる場合を考えよう。需要曲線(DD)と供給曲線(SS)の交点である競争均衡(e)の水準の賃金(w)よりも、高い水準(w')に最低賃金が設定されているとする。すると、労働需要が減って均衡点はe'に移動するので、l-l'の分だけ非自発的な失業が発生する。社会的余剰を考えても、e-e'-e''が死加重になるのでよろしくない。

2. 最低賃金が雇用を増加させることもある

雇用主に独占力がある場合を考えよう。利潤最大化のために競争均衡水準よりも低い賃金(w'')が設定され、労働供給が減って独占均衡(e'')が実現され、l-l'の分だけ自発的な失業が発生する。ここで最低賃金が独占均衡賃金(w'')と競争均衡賃金(w)の間に設定されると、均衡はemwに移動して、雇用はlmw-l'だけ改善する。もちろん死加重も減る。

3. 労働市場の競争度が是非を決める論点になる

上述の単純な議論では*3、労働市場の競争度が最低賃金の是非を決める重要なポイントになる。八田達夫氏は対談記事で、最低賃金が高すぎて清掃の仕事が無くなったであろう事例を挙げているので、有害になるケースを念頭に置いている。しかし、Card and Krueger(2000)のように最低賃金の引き上げが雇用に影響を与えなかったとする実証研究もある。経験的に最低賃金が問題になるのか否かは、よく分かっていない*4。だからこそ、低賃金労働市場の実態を調べて整理した上で議論すべき*5なのだが、往々にして左派を自称する人々は理屈をつけるのを嫌う傾向がある。

*1負の所得税とベーシックインカムを混同していたが、書き間違いだと思う(関連記事:生活保護制度とベーシックインカムと負の所得税の違い)。

*2インターネットで見かけるリフレ派で、最低賃金引き上げを主張する人々はそこそこいるようだ。確か、この女性も主張していた。

*3サーチ理論を使えば別の説明もできる。

*4OECD雇用見通し2006の最低賃金論」を参照。

*5関連記事:最低賃金について実効性のある議論をするために

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