2015年1月17日土曜日

バブル崩壊後の金融政策政治事情が良く分かる「日本銀行と政治」

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日本銀行と政治』は中央銀行の基本的な機能を踏まえつつ、リフレ派に批判的な議論が展開されているところは、翁邦雄氏の『日本銀行』と方向が同じものの、政治学者の上川龍之進氏が書いているので経済理論の説明は軽く、マクロ金融政策が決定されるまでの政治過程の描写が重いものになっている。経済事件などの記述も豊富で、巻末に関連年表などがまとめられているが、実証的に手堅い。政治理論に基づく議論は終章まで抑制されているので、ガチガチの政治学の本と言う感じでもない。教科書的な議論を補完するという意味で、マクロ金融政策に興味がある人には、読む価値があると思う。

1. リフレ派の派生と影響力の拡大

終章を読むと整理されているが、著者はバブル崩壊後の政治過程を、リフレ派の派生と影響力の拡大といった観点で描写している。デフレが対処すべき課題と認識されたこと、短期的な株価や為替レートなどの動きが政策課題として認識されたこと、民主党政権からして日銀批判を繰り返し政治土壌が変わったこと、政治的復活を目指す安倍氏がリフレーション政策を採用し、小選挙区制度により首相に権力が集中するウェストミンスター化が進んでいることもあり、政権交代によって実現させたそうだ。このような過程はキングダンの「政策の窓モデル」と言うらしい。

2. リフレ派と言うポピュリズム批判

リフレ派批判の本ではないから細かく議論はされていないが、リフレ派に対しては否定的だ。為替レートなどを断片的な情報だけで説明し、米国不動産バブルを目の前にしつつも、バブル発生などの可能性を考慮せずに、日本銀行を一方的に非難するポピュリズムとして捉えている。「出口戦略」に関しても、考えることが時期尚早だと主張するだけで、中長期的な視点が欠如していると指摘する。このようなポピュリズムに屈しず、中長期的な視点での金融政策の必要性を強調する。

3. 見落としがちな政治アクターの言動

多かれ少なかれ、読者が知らない事はあると思う。野田政権が金融緩和に向けて日銀に圧力を加えていたことなど、気づいていないリフレ派は多いと思う。白川総裁の時期に、日銀が各種金融緩和に努力していたことも、リフレ派には無かった事にされている。金融政策に関する姿勢はハト派、タカ派で単純に分けられがちだが、ハト派だと思われていた民間エコノミストの田谷禎三氏、木内登英氏、佐藤健裕氏が日銀審議委員に就任後にタカ派的な態度をとったこと、タカ派だと思われていた福井総裁がハト派的な政策もとったことなども見落とされがちな点だと思う。

4. リフレ派批判はやや説得力に欠ける

本書はリフレ派を定義しておらず、単なる金融ハト派なのか、通貨膨張政策(リフレーション政策)の信奉者なのか判然としない。インフレ目標政策には肯定的だが、単純な量的緩和には否定的といった人々は専門家には少なくないと思うのだが。細かく政治アクターの言動を追っているので、ここは違和感が残る。もっとも安倍総理は金融、財政ともにハト派なのでネット界隈のリフレ派に近く、本書の主張に大きな影響があるわけではない。

リフレーション政策をポピュリズムと断罪しているわけだが、もっと議論を積み重ねないと説得力に欠けると思う。アベノミクスの効果を断定するには時期尚早だったにしろ、ノーベル賞経済学者のクルッグマンの主張が契機(P.52)に広がったとあるが、クルッグマンは量的緩和の効果に否定的であり、リフレ派の主張とは合致しない事などを説明しても良かったはずだ。

他にも慎重に書かれているが、一部、違和感が残るところもある。「円が高騰し、輸出が急減したため、日本経済は再びデフレに陥る」(P.257)とあるが、ここ二十年間の経験的には理解できるのだが、不況とデフレを同一視していいのかは疑問がある。また、機動的な財政出動を批判している(P.275)のだが、国民経済計算(GDP統計)を見ると公的固定資本形成はそんなに増えていない。

5. 金融政策においても政治過程の研究は重要

経済学の教科書でマクロ金融政策を学ぶと、政治的な意思決定過程がすっぽりと抜けてしまう。しかし実際は政策効果の予測や評価は人によって異なるし、同じ人物の政策論も時間とともに変化していくものだ。また、社会厚生と言う観点ではなく、世論や選挙を睨んで金融政策を主張する人々も少なく無い。開発途上国などを見ていると、一般的に想定される社会厚生と言った観点からは不適切な金融政策が取られるときもあるわけで、著者は明確に主張していないが、政治過程の研究は重要だ。そういう意味で、マクロ金融政策に興味がある人は、本書を読む価値があると思う。

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