2013年8月7日水曜日

あらゆる学問の理論は死んだ?

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物理学部出身のマクロ経済学者Noah Smith氏が、経済学の先端研究で理論の地位が低下したと主張している(Noahpinion)。

コンピューターの進化で計量経済分析がしやすくなった以上に、2011年時点でカリブレーションを含む理論モデルが3割弱はあるので全滅と言うわけではないが、行動経済学分野を含めて理論的研究が進んでいないそうだ。

この主張の是非はともかくとして、他の学問分野も地殻変動が起きていると言い出しているのだが、何だか違和感がある。

But I also see econ's shift as being part of a bigger, deeper change that is happening all across academia.(拙訳:しかし、私は経済学の変化が、全ての学究的環境にまたがって発生しているより大きな深い変化の一部分でしかないと見ている)

全ての学術分野を語れる人がいるのかと言うのは置いておこう。

In physics, fundamental theory has hit a wall. The Standard Model, completed in the 70s, has been well confirmed by experiments, and all the leading candidates for new physics seem to be untestable.(拙訳:物理学では、基本定理が壁にぶつかっている。70年代に完成された(素粒子物理学の)標準理論は、実験によって良く実証されているが、全ての新たな物理学の最有力候補は検証不可能に思える)

ノーベル物理学賞の受賞者である南部陽一郎氏によると、素粒子物理学は加速器を使った実験結果から理論構築をしているわけだが、扱うエネルギー量が大きくなるほど加速器サイズも飛躍的に大きくなるので、そのうち実験不可能になる事は予想されている(クォーク第2版)。しかし、実験に限界が見えているわけで、(Smith氏曰く)理論構築に苦しんでいる経済学の事情とは異なる。

Even in math, formal deductive proof is slowly being replaced by proof-by-computer; at some point the question of whether math is an empirical science gets harder to answer definitively.(拙訳:数学でさえも、形式的な演繹的証明は徐々にコンピューター証明に置き換わっている。ある時期に数学が経験科学であるか否かの質問はきっぱり答えるのが難しくなっている)

事実なのかが良く分からない。構造的にコンピューターを使って証明できるのは、マクロ経済学のカリブレーションへの批判そのものだが、十分条件を示す場合に限られる。また、統計学のモンテカルロ法は証明とは言わないと思われる。

そもそも数学は従来手順で行き詰っているのであろうか。フェルマーの最終定理、ポアンカレ予想などは近年に解かれているし、最近もABC予想が解かれたと話題になっていた。

Meanwhile, a lot of the big revolutionary advances seem to be coming in biology, while the other "lab sciences" of chemistry, materials science, neuroscience and electrical engineering continue to rack up steady progress.(拙訳:その一方で、大きな革命的な発展は生物学でおきているように思える。また、その他の“実験室科学”である化学、材質科学、神経科学、電気工学が堅調な発展を遂げている)

ラボで実験を積極的に繰り返す分野は、実験器具や実験方法の発展を除けば17世紀から同じ様な事をしているので、何百年も平常運転と言える。素粒子物理学も実験器具が大きくなりすぎただけで、この部類に入るはずだ。

And "data science" is considered the new frontier. Obviously all these fields make use of existing theories, but they rarely tend to cook up dramatically new theories, or to work in "deductive", theory-first paradigms.(拙訳:“データ・サイエンス”は新たなフロンティアだと考えられている。明らかにデータ・サイエンスの全ての領域は既存理論を活用しているが、めったにデータ・サイエンスは飛躍的に新たな理論をでっち上げる事や、“演繹的な”理論第一パラダイムの中に勤めている事は少ない)

センサスや疫学調査は昔から行っているし、それを元にしたジョン・グラントの「死亡表に関する自然的および政治的諸観察」は1662年に書かれている事も無視して、データ・サイエンスを新しい分野だと考えたとしても、新しい分野なのだから地殻変動を表すのには不適当に思える。

The late 19th and early 20th centuries saw such enormous victories for theory - Cities destroyed! Thinking machines invented! Logistics revolutionized! Chemistry reinvented! - that we poured a lot of our brainpower into sitting down with pencil and paper and working out mathematical ideas about how the world might work.(拙訳:19世紀末から20世紀初頭では、紙とペンと持って座わり、どのように世界が動いているのであろうかと言う数学的な考えを解くことで、知力を注いだ理論の膨大な成果が見られた ─ 都市*1は破壊された! 考える機械が発明された! 物流に革命が起きた! 化学が改革された!)

物流に革命を起こした理論が思いつかなかった*2が、ZND理論が原爆の爆縮レンズの開発を成功させたこと、マクスウェルの方程式が電磁気学を発展させたこと*3、ルイス構造などが生まれたことなどを指しているのだと思う。

当時は電磁派や放射性崩壊などの新発見が多かったわけで、新理論が必要とされていたと言う観点が欠落している。既存理論で説明できない新しい現象が観測されたら、新理論が生まれる。逆に既存理論で現象が説明できる間は、新たな理論が発展できる余地は少ない。

そもそも物理以外はそんなに理論重視と言うわけではないので、学問全般にある変質かは良く分からない。物理学で停滞があって、他の分野の発展が著しいと言う事なのかも知れないが、それは学問分野全体における理論研究の停滞と言えるのであろうか。

*1長崎と広島の事だと思われる。

*2第26回日本物流学会全国大会のパンフレットにそう書いてあった。線形計画法などを指すのかも知れないが、これもコンピューターの発展が無いと実用的ではない。

*3コンピューターの発展は、理論よりも真空管やトランジスタなどの素子の発明の影響が大きいように思える。

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