2013年8月31日土曜日

マクロ経営学から見た太平洋戦争

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安倍総理を始めとして、戦前の日本を肯定しようとする人々は根強く存在する。対外拡張政策の是非について、例えば“侵略戦争”であったか否かで議論が道徳的観点から行われるのだが、もっと対外膨張戦略が戦略的にナンセンスだった事は認識されても良いと思う。そういう観点から戦前の軍部を強く批判しているのが「マクロ経営学から見た太平洋戦争」だ。

読みやすい本ではない。著者の森本忠夫氏は海軍航空隊員として従軍した経験があるためか、「夜郎自大」などと言う言葉で感情的に批判を行っているし、戦略的・戦術的問題の指摘が交錯しているため、整理された議論が展開されているわけではない。理論的背景も不明確なので、どこがマクロ経営学なのかも分からない。しかし、物量的な面からの太平洋戦争の戦略的問題点として、以下が繰り返し指摘されていて興味深い。

  1. 外交的失敗。陸軍がその政治的影響力の低下を気にし、満洲に関して米中に一切の妥協を拒絶しているうちに、米側が日本に資源輸出を禁じ圧力をかけ、長期的に軍事行動が不可能になる状態に追い込まれた。
  2. 三正面作戦。日中戦争が膠着しており、ソ連からの軍事的圧力に備えないといけない一方で、圧倒的な工業力を誇る米国に戦争を仕掛けた。太平洋戦争開始後、戦力の半分が中国大陸に釘付けになっていた。
  3. 絶対的劣勢の無視。特に日米は単純に見てもGDPで10倍以上の開きがあり、詳細を見ると戦争遂行に必要な鉱物・石油資源を米国や英国の植民地に依存しており、科学・技術でも劣っていた。長期的に米国に勝利する可能性は無かった。
  4. 国民経済の犠牲。資本財や労働力を軍備拡張に割いたため、民間資本の蓄積が遅れた。さらに、これが工業力の発展を阻害したので、最終的には軍備拡張を阻害する事にもなった。例えば軍艦製造に生産力を使いすぎ、貨物船の製造が出来ずに物資が不足し、軍艦製造もままならなくなった。
  5. 旧態依然とした戦術。陸軍では第一世界大戦での戦訓は分析されず、ノモンハン事件の敗北経験も省みずに、日露戦争から装備や戦術は大きくは更新されていなかった。海軍も艦隊決戦に偏重して、シーレーンの確保などを軽視していたし、無闇に戦線を伸長して戦力を分散させた。また、陸軍と海軍は不協和で、協調して作戦行動を行う事も出来なかった。

1931年9月の柳条湖事件から1941年12月の真珠湾攻撃まで日米関係が悪化していく間に、戦略的問題に気付く時間はあったし、実際に山本五十六海軍大将は長期的に必ず敗北する事を認識し明言していた。負ける戦争に自ら飛び込んでいったわけだ。

素朴な平和主義者でなく強欲な帝国主義者であっても、戦前日本の政治体制は許容できない問題を多く抱えていた。陸軍を制御する必要があったわけだが、鳩山由紀夫の祖父の鳩山一郎が政争のために騒ぎ立てた統帥権干犯問題で、それは不可能になっていた。

1 コメント:

泰成 さんのコメント...

>安倍総理を始めとして、戦前の日本を肯定しようとする人々は根強く存在する

 証拠はなんでしょうか?そもそも、「戦前の日本」と一言で言っても、色々な側面がありますよね。何もかも一緒くたにする表現には関心できませんな。

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