2013年8月1日木曜日

池田信夫に伝えたい ─ 独占利潤も投資リターン

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経済評論家の池田信夫氏が「製造業はAKBに学べ」で、「資本主義のゲームのルールが変わりつつ」あり、「企業は投資リターンより独占レントを目的として行動する時代が来た」と主張している。AKB48に関しては慶応大学の小幡氏が議論するであろうから置いておいて、教科書的なミクロ経済学を誤解していそうな部分を指摘したい。

普通の経済学では賃金は労働生産性で決まり、利潤は資本の限界生産性で決まると考えるが、たとえばアップルのすごい利潤率は、とても投資に対するリターンとは考えられない独占レントである。

そもそも定義上、「アップルのすごい利潤率」であっても、「投資に対するリターン」になると言う国語的なツッコミは置いておこう。賃金や利潤に関する説明が、教科書のテキスト部分だけ暗記していて、数式部分を無視している気がする。

「賃金は労働生産性で決まり、利潤は資本の限界生産性で決まる」と言うのは、完全競争ならば正しい。生産関数F(K, L); K:資本、L:労働を考えて、生産物で測った賃金率は∂F/∂L、(投資の)利潤率=利子率は∂F/∂Kになるからだ。

「アップルのすごい利潤率は、とても投資に対するリターンとは考えられない」と言うのがおかしい。教科書的なミクロ経済学においてはF(・)は凹関数になり、企業はKやLを減らし生産を抑制することで、利潤率を高め事ができる。

ただし、排他的独占力が無いと、ある企業が生産量を減らしても、別の企業が生産量を増やす事になるので、独占利潤を得ることができない。裏を返せば、アップルの高い利潤率は、製品差別化による排他的独占力と解釈すると、普通の経済学に収まる話である事が分かる。

特許の取得だろうが、製品差別化だろうが、囲い込みだろうが、資本主義の黎明期からレント・シーキングをする企業は後を尽きない。投資リターンを大きくする方法の一つが、排他的独占力の確保だからだ。古くはスタンダード・オイルが思い出されるわけだし、ブランド企業は全てその類であろう。つまり、ゲームのルールが変わったわけではない。

なお、排他的独占が容易に維持できる時代になったという話であれば、独占の弊害による過小均衡が安定と言う意味になるので、池田信夫氏が標榜するような新自由主義的な政策は問題があると言うことになる。

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