2012年11月20日火曜日

池田信夫氏と小笠原誠治氏のためのインフレ目標政策解説

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安倍自民党総裁のリフレーション政策を池田信夫氏が批判し、さらにそれを小笠原誠治氏が批判している。安倍氏のプランは、インフレ目標まで無制限に量的緩和を行うように、日銀に政府が強制すると言うものだ。安倍氏の言説は、(1)中央銀行の独立性(財政規律)、(2)量的緩和の無効性、(3)ハイパーインフレーションの可能性から批判がされているが、(4)インフレ目標政策の機能などが誤解されているようだ。

1. 中央銀行の独立性(財政規律)

中央銀行の独立性(財政規律)の議論は、特に大きな問題は無いように感じる。「日銀の国債引き受け禁止は財政規律である」や「日銀による国債引受が禁じられている理由 : 牛さん熊さんブログ」の内容で、池田氏と小笠原氏の議論ではないが。なお余談だが、日銀引受の強制はともかく、国家が目的を持って日銀総裁を含めた日銀政策委員会の審議委員を決めるのは、妥当なレベルの圧力ではあると思う。民主党は既に2名、金融緩和の支持者を送り込んでいる(関連記事:リフレ派のささやかな政治的な勝利)。

2. 量的緩和の無効性

小笠原氏が『日銀がじゃぶじゃぶマネーを流通させてインフレを起こすことに成功すれば』効果があると主張しているのだが、流動性の罠にあるときは、そもそもじゃぶじゃぶマネーを流通させる事が困難だ。貸出金利が安すぎて、貸し手は借り手を探す気も起きない。

実際に中央銀行が操作できるマネタリーベースを増やしても、市中に流通するマネーサプライ(M2)は変わらず、お金が流通しないことは経験から分かる(平成23年度年次経済財政報告第1-2-15図)。

マネタリーベースを幾ら増やしても無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――――ッ。なお、無駄でない思われる施策は、後の4節で述べる。

3. ハイパーインフレーションの可能性

池田信夫氏が「インフレは起こらないがハイパーインフレは起こる」と主張しているが、これは議論が大雑把過ぎる。通貨の信認が失われる過程が描かれていないからだ。翁・小田(2000)は次のような過程を想定している。

何かの拍子*1でインフレの見通しが広まる。一桁台前半のインフレ率で通貨の信認が失われたとは誰も思わないが、一桁台後半にもなると懸念が高まり金利が上昇する。国債金利が急激に上がると、日銀の資産価値が毀損して見合い資産不足が発生し、市場オペが短期的に困難になる。

市場オペが困難と言うのは、日銀が1000万円で購入した国債が、900万円でしか売れない状態になると言うことだ。1000万円分の日銀券が市中に出たのに、900万円分の日銀券しか市中から回収されない。つまり100万円分の野良マネーが発生する。

この時点で通貨供給量をグリップできなくなるので、インフレーションを抑制する手段を日銀は失っていることになる。それが市場のインフレ懸念をさらに高めて、さらに金利が上昇すると、さらに見合い資産不足が拡大する事になる。危惧されているハイパーインフレーションの発生過程はこういうものだ。

中央銀行は政策金利や法定準備率を引き上げる事も可能であり、さらに政府が増税に踏み切ればインフレーションを抑えることは可能だ。だから政府が増税して財政再建する能力や意欲がある限りは、通貨の信任は失われず、ハイパーインフレーションは発生しない。

安倍総裁に財政再建する意欲は無さそうだけど。

4. インフレ目標政策の機能

中央銀行に量的緩和を強制し、インフレーションを起こすことがインフレ目標政策の機能だと、池田信夫氏も、小笠原誠治氏も、さらに安倍自民党総裁もそう思っているようだが、それは正しくは無い。期待インフレ率を引き上げる事が目的だ。ややこしいが、実現されるインフレ率の引き上げは、その直接的な機能では無い。

低金利でも投資を行わない企業は、こういう事を考えている。投資を行ったとして、現在は調達金利が低く、当面は黒字になる。しかし、将来の調達金利は分からない。投資を行い景気がよくなったら、インフレ率は上昇するであろう。すると中央銀行は金利を引き上げてしまい、赤字になってしまうのでは無いであろうか?

期待インフレ率と言っているが、結局は政策金利に対する予測になっている。端的に言えば、ある程度のインフレ率までは、政策金利を上げませんよと言う中央銀行のコミットメントを、市場関係者に周知するのがインフレ目標政策だ。信じ込ませる方法は何でも、盲目的な量的緩和もあるであろうが、長期国債の保有比率を高めてもよいし、単にインフレ目標を引き上げても良い。お金を積み上げれば万事解決のように安倍総裁が吹き込まれているのが気になるが。

このメカニズムが上手くいくと投資が増えて、さらに緩やかなインフレーションで、自然利子率に近づく*2ことから、また投資が増えることになる。最初に投資が増えて、次にインフレが発生し、さらに投資が増えると言う連鎖になる。

5. クルッグマンの論文、読んでよ!

ノーベル賞経済学者のクルッグマンの論文「復活だぁっ! 日本の不況と流動性トラップの逆襲」に、もっとフォーマルに、なぜ量的緩和を幾ら行っても無駄か、なぜ期待インフレ率を引き上げる必要性があるか書いてある。14年前から理論的に整理してあるわけだし、山形浩生氏の訳もあるわけだし、そろそろ経済評論家の皆さまも一読されたらよろしいのでは無いでしょうか。

関連記事

  1. りふれ派の社会的機能について考える
  2. 日本経済に関する10の俗論のまとめ
  3. 日銀がリフレーション政策を嫌がる理由

*1理由は何でもよく、資源価格の高騰や、資産バブルが考えられる。

*2実質金利0%で需給均衡する状態で、1%の物価下落があると、名目金利-1%にならないと需給が均衡しない。つまりデフレ状態だと、適切な金利が達成できない可能性が高い。

2 コメント:

POM_DE_POM さんのコメント...

>通貨の信認が失われる過程
これについては、斉藤氏を引用し、その中で金利上昇(=債券価格下落)による日銀破綻を指摘していますので、上記の内容と大差ないかと。

ただ、通常は政府が歳出の膨張をコントロールできなくなり、財政ファイナンスで賄おうとすることでハイパーインフレが起こる、政府が正気に戻ったら収まる(で、合ってるのかな?)。
つまり財政破綻が先で、これを中央銀行に付回すことで通貨の信認が失われるのであって、中央銀行に見合い資産不足が起こっても、(記事で指摘の通り)政府がこれを支援する限りインフレにはならないはず。順番がアベコベです。

無限に量的緩和を続ければ(池田氏の脳内では効果は無い)、必然的に中長期の国債も購入対象になり、それらを購入し続ければ結局財政ファイナンスと同じことが起きるからハイパー!!な感じで知性の飛躍が起きてるのかもしれませんが。


ついでに。
クルーグマンの論文を改めて(全文じゃないですが。長いw;)読み直して見たんですが、結局のところ自然利子率やGDPギャップはいずこに!?という話に戻ってしまうような気がします。
(で、リフレ派と構造派のあいだで延々と堂々巡りの議論が交わされる)

クルーグマンが言うように、GDPギャップが大きいならインタゲ政策で得るものは大きいのですが、そうでないなら得るものは小さく、流動性の罠から抜け出すのは急ぐ必要は無い(日銀のスタンス?)ってことに。

uncorrelated さんのコメント...

>> POM_DE_POM さん

コメントありがとうございます。

> 上記の内容と大差ないかと。

斉藤氏の該当部分の記述だと、見合い資産不足は議論されていないかと思います。
日銀券が返却されても、日銀貸出等の資産と相殺できれば問題ないので、相殺できない理由を明確にしてみました。

> 順番がアベコベです。

通常は中央銀行が財政ファイナンスを行いだすとハイパーインフレーションになりますね。
ただし財政赤字が続いてきて、かなりの政府債務が既にある状態ですから、見合い資産不足も心配されているようです。

> GDPギャップが大きいならインタゲ政策で得るものは大きいのですが、そうでないなら得るものは小さく

ずっとデフレで経済が縮小していると言う見解と、一人あたり実質GDPは上昇しているので、実は経済は拡大していると言う見解がありますね。

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