2011年5月17日火曜日

枝野官房長官が、銀行に債権放棄を要請する理由

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枝野官房長官が、金融機関に東京電力向け融資の一部債権放棄を求める発言をしたことについて、東京証券取引所の斉藤惇社長(読売新聞)、玄葉国家戦略相(読売新聞)など、各所で批判が呈されている。野田佳彦財務相も、政府見解ではないと枝野発言を牽制している(Bloomberg)。

資本主義の鉄則を無視する国家社会主義者と枝野氏が批判されそうな発言だが、実際の所は超法規的な方法で、東電の負担を確定させようとする駆け引きの一貫だと見た方が良いであろう。

1. 枝野発言が異常極まりない理由

まずは枝野発言が異常極まりない理由を確認しよう。

企業の経営破綻時は、まずは株主が損失を被り、次に債権者が損害を被るのが資本主義社会の鉄則だ。日本航空のケースでも、まずは100%減資で株主が有限責任の範囲内で最大限の損失を被り、次に銀行団が債権を放棄している。

しかし、政府は100%減資を前提としない救済スキームを作成しつつあり、現時点では東電の株主、また社債保有者は保護される見込みだ(ロイター)。また、この賠償スキーム自体が困惑を産んでいる(ロイター)。

2. なぜ、JALのように東電を潰せないのか?

社会通念上は、東電は賠償責任から逃れられない。なぜ特別な救済スキームを用意し、さらに金融機関に債権放棄を求めないといけないのか?

この理由は簡単で、原子力損害賠償法の「異常に巨大な天災地変」である場合、政府が電力会社に代わって損害を補償する事になるからだ。この場合は、国庫負担も問題になるであろうが、東電が損害賠償を負わない場合、道義的に世論が納得しない可能性がある。

中部電力の浜岡原発停止受け入れを見るところ、日本の電力会社は株主利益よりも政治判断を優先するため、東電が裁判で政府と判断を争う可能性は少ないと思われる。しかし、政府案で100%減資が示唆されるような状況では、主要株主が経営陣に圧力をかけて、裁判で「異常に巨大な天災地変」であったか否かを争うことになりうる。福島第一原発は、原子力安全・保安院の基準は満たしているわけで、安全性は政府のお墨付きであった事からすると、「異常に巨大な天災地変」として認められる可能性は少なくない。

3. 東電株主に、東電は賠償した方が得だと思わせる

しかし、東電株主にとっても「異常に巨大な天災地変」となるかは不明だ。もし資産価値がゼロにならないように政府が配慮してくれれば、一定規模の損害賠償を負う方が確率的に有利と判断できなくもない。そこで政府は、他の電力会社に負担を回したり、金融機関などに債権放棄をさせることで、東電の負担を軽減するように画策している。一か八かの法廷闘争よりは、政府スキームに乗ったほうが合理的だと東電株主には思わせる必要がある。

4. 国庫負担の大小は、経済的には問題にならない

政府が家計や民間企業と大きく異なる点は、増税で強制的に収入を増加させられることだ。公共性から必要となる支出のためには、増税は問題とならない。つまり、国会内の調整を別にすれば、特別税を創設して電力会社等にかける事は難しくない。

電力は日本で16兆円規模の産業であり、増税を行う余地はある。国庫負担が膨大になっても、実際の所は増税で乗り切ることは難しくない。現在でも電源開発促進税がかけられており、国鉄民営化のための特別タバコ税などのケースもあるため、原発災害のための特別税は特に異例となるわけではない。

ゆえに、東電に賠償責任が認められて東電破綻後に国が残りの賠償を行うケースでも、「異常に巨大な天災地変」となり国が全ての賠償を負うケースでも、現在検討されているような複雑な救済スキームは、経済政策的には必要が無い。

5. 東電の負う損害賠償金額は、まだ計算されていない

この賠償スキームを巡る議論で興味深いことは、誰も具体的な損害賠償金額は愚か、損害賠償の内容も検討していない事だ。政府は最大で5兆円と見積もっているようだが、その内訳は少なくとも大きく公表はされていない。

しかし、30Km圏内の経済的被害は、避難が6月まで続くとしても5,000億円程度にしかならない(リンク先記事より、非農業従事者への賠償金額を増額)。水産業への被害などもあるが、茨城県の水産業で年200億円弱と、実際のところは大きな規模ではない。2兆5000億円の剰余金を抱える東電が負担できない金額かは、まず詳細に計算してみる必要はあるだろう。

賠償金額の見積りも公表しない段階で超法規的な賠償スキームを策定するのは、やや異常な政治的リーダーシップに思えてならない。「異常に巨大な天災地変」を理由に東電が責任回避を行うのを避けたいのは分かるが、法的手続きを蔑ろにすると、日本の資本主義が揺らぐ事になる。

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