2011年5月29日日曜日

「自然エネルギー協議会」の資料を検討する

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

自然エネルギー協議会が、休耕田等を利用した大規模太陽光発電(メガ・ソーラー)で電力供給をしようと言う、野心的な試みを宣言しだしたので、その配布資料を検討、採点してみる。

同構想に関して、マスコミは評価を行っていないが、ブログでは「野心的を通り越してほとんど不可能」(「小さな政府」を語ろう)「「関西広域連合」との発表資料が馬鹿すぎる」(切込隊長BLOG)と否定的な意見が目立つのだが、どこに問題があるのか指摘が無いからだ。

1. コスト分析 ─ 不可

化石燃料価格は上昇中なので、再生可能エネルギーにも将来的にも価格競争力が出てくるそうだ。2020年までに、火力コストを逆転するとは米政府見解などとして報道されているので、ここには問題は無いであろう。原子力のコストを下回るわけではない。ただし、コスト競争力があるはずなのに、孫正義氏は20年間・40円/kWhでの電力の全量買取を要請しているBLOGOS)。

なお、コストに関しては、NEDO太陽光発電ロードマップなどの従来予測ほどは低下していない印象がある。2009年に制定されたロードマップでは、2010年に23円/kWhの発電コストが期待されていた。しかし、2011年4月から、家庭用太陽光発電システムの買取価格は42円/kWhに設定されている。

2. 賦存量分析 ─ 不可

休耕田20万ha、耕作放棄地34万haをメガ・ソーラー発電所に転換すれば、2.7億kWの賦存資源が見込めるとある。ドイツのLieberose Solar Parkは126haの土地で70万枚のソーラーパネルを使用し、530万kWの発電能力を有するので、それをベースにすると2.27億kWだから、この数字は概ね説得力がある。また、農地転用に関する法的規制もクリアできるとある。もし違っていても、この点は国会議員が賛同すればいいので、大きな問題ではないであろう。

2020年までに、太陽光発電で1億kW、風力発電・地熱発電で0.5億kW、合計1.5億kWの再生可能エネルギーでの発電を目指すそうだ。風力発電と地熱発電の賦存資源量の概算が無い。洋上浮体風力発電でも開発されない限り、風力発電に適した場所が日本には無いし、地熱発電所の賦存資源量は50年後の実用を目指している高温岩帯発電でも2,900万kW/hしか無いのだが。なお、1.5億kWの発電量があれば、現在の日本の総発電能力の70%程度になる(日本の発電所の発電能力)。

3. 需要追随度分析 ─ 不可

太陽光発電でピーク電力を供給するそうだ。夏場のピークは11時~15時ぐらいで主張にあっているが、冬場のピークは朝と夜なので太陽光発電は機能しない。これは3月の計画停電で学んだ人は多いであろう。

また、夜間割引を勧めているが、ピーク発電能力が昼間になっているので不要なはずだ。加えて言うと、今でもやっている。

4. 出力変動分析 ─ 不可

資料では全く触れられていないが、再生可能エネルギーの出力は不安定だ。

ドイツで風力発電所を多数建設したところ、石炭火力発電所の運用に苦しむ事になった。つまり、再生可能エネルギーによる発電出力が不安定なので、石炭火力ではフル稼働が難しくなっていると報じられている。日本では起動の速いLNG火力発電所が多いが、発電能力の70%が再生可能エネルギーで追随できるものかは疑わしい。

5. 生産量予測 ─ 不可

資料では全く触れられていないが、2020年までに大量のソーラー・パネルを生産できるかは不明だ。規模的には、2009年で262.7万kWという導入実績と、220万kW程度という年間導入量を考えると、2020年までに1億kWを実現するには、生産量を4倍程度引き上げる必要があるだろう。

しかし、現在、メガ・ソーラーではPb-Te型の太陽光電池が製造コストの面で人気だが、日本国内では生産していない。一般的な原材料のSi結晶の供給が不足し、ソーラー・パネルの生産に影響が出る事はある。

6. 総合評価 ─ 不可

電力会社か政府が「20年間・40円/kWhでの電力の全量買取」をしてくれたら、高コストのメガ・ソーラーを大量に建設しますが、送電等の事は一切考慮しませんよという計画なので、不可をつけざるをえない。電力会社の経費の半分は発電関連のコストだが、5~10円/kWhの発電方法から、40円/kWhの発電方法に変更したら、電力料金は2倍~3倍にあがりそうだ。

7. メガ・ソーラーに将来は無いの?

自然エネルギー協議会の計画に将来は無くても、太陽光発電に将来が無いわけではない。太陽電池モジュール変換効率の改善、モジュール長寿命化、製造コストの低廉化、スマートグリッドの実現に、何年も取り組んできている。電力会社の払った電源開発促進税を元にした、エネルギー対策特別会計から、研究開発予算の一部は賄われている。

2020年には廉価で高性能なメガ・ソーラーが実現可能になって、「20年間・40円/kWhでの電力の全量買取」が無くても民間主導で実現できるかも知れない。そのときには、14円/kWh程度の発電原価になっているはずなのだから、40円/kWhの買取価格の設定は高すぎる。

1 コメント:

santa301 さんのコメント...

難しいことはわからないので、素人的に、

太陽光発電の発電効率が飛躍的に上がると、全量買取で太陽光発電比率が高くなり、

「2030年2月1日、太平洋側はに前日夕方から雪となり、少ないところでも積雪5cmを観測しました。天気は今日も一日雪は降り続く見込みです。電力不足が懸念されますので、電気での暖房はしないで下さい。」

とか、言われるんでしょうか?恐ろしい。

単に「問題提起」ということであればよいのですが、この方は商売上手ですから。

(uncorrelated様 コメント欄に1人で書いているようで済みません。BLOGOSの刺激的なタイトルに釣られて拝見するようになりました。過去のエントリも勉強になります。今後も期待してます。) 

コメントを投稿