2011年3月22日火曜日

日本経済新聞編集委員・滝順一氏のゆとり脳

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

原発の構造的欠陥を指摘しようとしている日本経済新聞の編集委員・滝順一氏の『日本の原発、「海依存」が弱点 冷却に構造的課題』という記事が、事実誤認に基づく根拠の無い記事になっているので、問題点を整理したい。

氏の論説は、社会科学系の学部であれば赤点になるような内容だ。全国紙の編集委員が書いた論説が、このような「ゆとり脳」型では世論が混乱してしまい、原子力政策に悪影響を及ぼしかねない。

1. 海水ポンプを問題視し、冷却炉を必要とする滝順一氏の主張

内容は福島第一原発の現在も進んでいる状況が、海水による冷却機構に依存する、日本の原発の構造的な問題に起因するという批判だ。福島第1原発の事故の経過をほとんど無視しており、冷却塔による空冷式の原子炉の危険性を検証しない内容記事となっている。

滝順一氏は、「福島第1で起きた電源の全喪失という事態は、冷却水を冷やす海水ポンプも動かなくなったということだ。」と、簡単に海水ポンプの故障が問題になったと結論している。さらに、「福島第1の原子炉のいくつかを空冷にしていたら、事態は違った」と主張している。これらは、福島第一・第二原発の状況を全くといって考慮していない妄想だ。

2. 福島第二は、海水ポンプ停止でも早期に事態を収束

福島第二原発は、今回の津波で電源を喪失し、海水ポンプが故障した。つまり滝氏が問題だと指摘する海水による冷却機構は停止した。しかし、3月11日20時に電源車により外部電源を確保し、非常用炉心冷却装置(ECCS)の作動を継続することができたため、原子炉格納容器内の圧力低減措置をとったものの、3月14日に海水ポンプの交換修理を行い、3月15日には1~4号炉全機の冷温停止に成功している。

3. 福島第一の状況は、海水による二次冷却系に起因しない

日本の沸騰水型軽水炉は、一次冷却系は真水、二次冷却系に海水を用いている。このため、海水ポンプが停止すれば、原子炉が加熱するのは間違いない。しかし、福島第二原発を見れば分かるが、二次冷却系の一時的な停止は致命傷とはならない。ECCSが稼動し続けていれば、二次冷却系の機能回復は十分にできたはずだ。

4. 福島第一の状況では、冷却塔があっても事態は改善しない

もし海水ポンプの代わりに、海外の原子力発電所で見られるような冷却塔があったとしても、事態はほとんど変わらなかったと思われる。

まず、福島第一で生じた最も重大な問題は、一次冷却系の停止だ。冷却塔は、空冷式の二次冷却系のための設備だ。一次冷却系が機能停止している場合、二次冷却系が生きていても意味がない。また、冷却塔も水を循環させて稼動させるため、全電源喪失時に正常に機能するとは思えない

5. 何が福島第一と第二を分けたのか?

津波の規模が福島第一と第二で大きく異なったわけではない。しかし、余震によって発生した津波による被害を、福島第一だけが受けたようだ。

官邸の発表資料には、「20:30 1、2、3号機、中操照明確保準備中、M/C水没」とある。電源車の接続が難航している状況で、分電盤が水没したようだ。結集した電源車が利用されている報道も無い。

断片的な報道しかないため、M/C水没が電源車の接続を阻害した確固たる根拠は無いが、福島第一と第二の違いは、電源の確保とECCSの作動継続に尽きるのは間違いない。

6. 滝順一氏が「ゆとり脳」だと言える理由

上述したように、滝順一氏は今回の福島第一原発の問題で、電源喪失による一次冷却系の機能停止という最大要因を看過し、海水ポンプ停止による二次冷却系の機能停止を過大に評価し、かつ電源喪失時に冷却塔が機能するという根拠の無い妄想を抱いている。専門家に直接取材も行っておらず、著しく論拠を欠く論説を記述している。何ら根拠を調査・分析することもなく、噂や妄想から重大事故の原因を断定するのは、「ゆとり脳」型文章としか言いようが無い。

7. 滝順一氏のような「ゆとり脳」が日本を殺す

資源価格の高騰に対応し、化石燃料の利用削減が求められている昨今では、現実的に原子力開発は避けては通れない。一方で、原子力には危険性があり、開発には莫大な費用がかかるため、政府の支援なくては成立しない技術だ。つまり、国民の理解の元で政府が支援を行う必要があり、そのためには妄想ではなくて正しい事故原因の理解の啓蒙が必要になる。

全国紙の編集委員が書いた論説が、このような「ゆとり脳」型では世論が混乱してしまい、原子力政策に悪影響を及ぼしかねない。震災後にインターネットでのデマの吹聴が問題になっているが、日本経済新聞もその一つとなってしまっているのが残念だ。

2 コメント:

gonbe123 さんのコメント...

2011.04.03の中外時評でもゆとり脳さらけだしていますよ。
日本の政治が、太陽光や原子力以外の研究に予算を
与えないことや、レスキューロボットもコンテストが行われるまで研究が盛んなのに、「実績がない」
との理由で今回の件には出動することも出来なかっ
たという事実を知らないんでしょうね。
新聞記者が何の裏付けもとらず、勝手に空想したことを記事にするようでは
読者が離れていくのも無理はないですよね。

uncorrelated さんのコメント...

>>gonbe123さん
コメントありがとうございます。
作文は上手いのかも知れませんが、調査不足で議論されると、うんざりしますよね。

コメントを投稿