2023年10月15日日曜日

性的児童虐待の被害を受けると、成人後に性的児童虐待を犯しやすくなるとは言えない

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Salter et al. (2003)を紹介している日経メディカルの記事に参照しつつ、性的児童虐待の被害者は、性的児童虐待を犯しやすいと主張している人がいた。あるイギリスの総合教育病院にかかった家族外からの児童性虐待の被害を受けた224名の男性のうち26名が、後日、家族外に児童性虐待を行っていたことを指摘する論文だ。他にも、Ogloff et al. (2012)はオーストラリアのデータから相対リスク7.59としている。これらの論文からは、性的虐待の被害者は明らかに高リスク群に思えてくる。

これらの論文には大きな問題がある。共変量を制御していない。性的虐待の被害者は、身体的虐待や育児放棄など他の虐待も受けていることが多い。224名のうち26名が加害者になったと言う統計や、相対リスク7.59と言う結果からは、他の虐待や生活環境の影響の結果である可能性を否定できない。また、Salter et al. (2003)に関してはサンプルが大きく偏っている可能性がある。ある総合教育病院に来た被害者を追跡しているわけだが、性的児童虐待、特に男児は被害を報告しないと考えられるし、目立った外傷がなければ病院に来ないかも知れない。心理的影響と来院の有無に相関があれば、バイアスがはいる。

Widom and Ames (1994)の人種(黒人),年齢,性的虐待,身体的虐待,育児放棄を説明変数に使ったロジスティック回帰による前向き分析では、身体的虐待の経験が性暴力加害者になるリスクを有意に高める一方で、性的虐待の影響はそうではない。売春に従事するリスクは有意に高めているが。

Widom and Ames (1994)は11歳以下の虐待経験の影響を平均32歳時点までの犯罪歴で見たもので、33歳以降に犯罪を犯す可能性を過小評価している可能性がある。しかし、Widom and Massey (2015)は平均51歳時点までデータセットを伸ばしたものをコックス比例ハザードモデルで分析しているが、身体的虐待と育児放棄の影響が観察される一方で、やはり性的虐待経験の相関はやはり観察されない。下に転載した結果のプロットで、Sexual abuseはControlsを下回っている。

こういう分けで、性的児童虐待の被害を受けると、成人後に性的児童虐待を犯しやすくなるとは言えない。性的児童虐待の被害者は性的児童虐待を犯しやすいと言うのは共変量を考えなければ誤りではないが、身体的虐待や育児放棄といった別の予測因子を用いた方がよりよい予測を可能にする。なお、本論の元ネタは最近のサーベイ論文 Widom (2017) の該当する節(DOES CHILDHOOD SEXUAL ABUSE LEAD TO LATER SEXUAL OFFENDING?)なので詳しいところはそちらを参照されたし。

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