トランスジェンダーに関する言説が理由なのだと思うが、ジェンダー社会学者の牟田和恵氏がキャンセルカルチャーの被害にあったと主張している*1ことに対して、これまで他者をキャンセルしてきたのに自分がキャンセルされるのには文句があるのかと揶揄する声が多数からあがっている。しかし、牟田和恵氏が他者をコミュニティから村八分にしようとしたことは(私が知る限り)ないし、ジェンダー社会学者やフェミニストが多数賛同しているキャンセルカルチャーを推奨するオープンレターの賛同者にも名前を連ねていない。
キャンセルカルチャーを推進してきた他のジェンダー学者やフェミニストと混同している人も多そうではあるが、キャンセルカルチャーの意味を誤解しているか、まったく理解されていない人もいるようだ。キャンセルカルチャーとは言動を理由に、古代ギリシャの陶片追放のように人格を役職から降ろしたり職場や共同体から追放することで、村八分の亜種だ。侵略戦争をはじめた政治家と懇意なオペラ歌手を公演から降板させるような行為が典型例になる。文化をキャンセルすることではなくて、人格をキャンセルする文化。また、意見論評だけではなく、実力行使を伴う話である。
揶揄している人のうち1名は、牟田和恵氏がキャンセルした事例として、JAなんすんの西浦みかんと「ラブライブ!サンシャイン!!」のコラボ企画に「オタクがミカン箱買いするとでも?」とツイートしたことを事例として示している。コラボ企画への非難めいた疑問にはなっていると思うが、オタクをコミュニティーから追放することを扇動していないし、ミカンの箱買いをしないと看做すことが非人間扱いとも言えないので、キャンセルカルチャーとは言えない。不買運動などを呼びかけてもいないので、キャンセルカルチャーとよく混同されているオタク文化排斥になっているのかも分からず、ミカンの箱買いをするのは母の役割と言うジェンダーバイアスが観察されるだけである*2。
追記(2023/09/30 21:30):牟田和恵氏が杉田水脈衆院議員のキャンセル運動を主導したと言う主張があるのだが、LGBTを巡る発言での杉田水脈議員の辞職を求める抗議運動をしていたのはLGBT法連合会で、牟田和恵氏と直接関係はないし、現時点で𝕏/Twitter検索した限りでは杉田氏の辞職や辞任を求めたツイートはなかった。なお、杉田水脈氏の科研費に関する言説が、牟田和恵氏への名誉毀損と裁判で認定されたことはある。
一言ぼそっと呟いたぐらいで刑事罰を受けたり民事賠償が課せられるリスクは低いが、言論の自由を尊重する立場の人から見れば、言説が気に入らないからといって他者を追放したことがあると言われるのは、不名誉な話だ。名誉毀損と言える。この人も誰かをキャンセルしていたような…という曖昧な記憶だけでは不十分で、法廷で裁判官に示せる根拠が手元にあるときのみ、そのように言及しよう。他者を批判する者の記憶装置は、URLを記録したキャプチャ画像だらけにならざるをえない。
0 コメント:
コメントを投稿