道の駅に、板野紙工から寄贈された2コマ型の強化ダンボール製の授乳室*1が設置され、ネット界隈で非難と擁護の議論が交わされている。安っぽいことと、鍵がかからずカーテンのみであること、天井が空いていることが主に非難されている。
これらの非難をされると、その欠陥が何をもたらすのかの評価がされていない。防災や防犯上の具体的問題があれば、施設管理者が施設利用者に対して負っている安全配慮義務*2から対策すべきと強く言えるが、見た目の問題であれば利便性を優先すべきと言う意見に抗うのは難しい。ネット界隈の多くの道の駅を利用しない人にとって、視界に入らないものだからだ。
1. 安全配慮義務上の問題は見当たらない
防犯の中でも具体的なリスクが示されるもの、例えば盗撮対策は安全配慮義務と考えられる*3。ダンボール授乳室の高さは2mであり、天井が開いているため、男性がスマホをかざせば内部を盗撮することができる。実際に、トイレの個室が隣の個室から盗撮された事件があったので、そのような犯罪は予見できる。今回のダンボール授乳室は、天井に半透明の目張りをすることになった。なお、完全に密閉することは消防法からできないそうだ。
鍵がかからずカーテンのみであることが、安全配慮義務に反しているとは言い難い。痴漢や暴漢の進入を想定しているのだと思うが、ダンボール授乳室は人目につくところに設置され、密封もされないので内部の音は外に漏れる。逆に、鍵が防犯に貢献する程度は低い。鍵付き個室トイレに押し込まれて性的暴行を受ける事件が度々報じられている。衣料品販売店の試着室はカーテンだが、それが大きな問題になっているとは聞かない。がさつな女性が中に人がいるのを気にせずカーテンを開き、たまたま通りかかった男性が授乳中の女性を見てしまう事故は生じそうではあるが*4、裁判官が認めそうなレベルで安全配慮すべき問題とは言えない。
2. 費用対便益が小さいという批判にもならない
安全配慮義務に抵触しなくても、費用対便益が低いというのは重要な観点になるが、この問題も指摘されていない。見栄えの悪さが便益の小ささに直結するわけではないからだ。強化しているとはいえダンボール製で重厚感はなく、貼ってある飾りはすぐ取れそうであるし、形状もシンプルなので、安っぽいというのは不当な批評とは言えないが、施策の目的は乳児をつれた母親の便益の向上だ。利用どころか道の駅にもほとんど行かないネット界隈の多数ではなく、乳児をつれた母親の顕示選好で判断すべきとなる。自家用車の車内や授乳ケープで済ます人が多く利用者がなければ*5、撤去すればよいだけだ。今回は投資金額が小さい。ダンボール授乳室は廉価で*6、とくに今回は寄贈であり、重量と材料から設置と撤去も容易だ。虫がわきそうという指摘もあるが、発生してから交換か撤去を考えれば済む。
3. 外見がチープは非難として弱い
安全配慮義務上の問題とならなければ、一般には外部不経済を含めて費用対便益が議論になるが*7、ダンボール授乳室に関して非難されている点は、安くて軽くて設置と撤去が容易であることのトレードオフから生じるチープさなので、費用対便益が低いという話にはならない。ダンボール授乳室を非難する前に限らずだが、まずは不満に思ったことが安全配慮義務上の問題点になるか、費用対便益を下げてしまうことか検討しよう。もっと豪華な製品がよいと言うような意見が不徳というわけではないが、そでないことを自明の悪のように口汚く罵りだすと、周囲の反発を受けるものだ。
*1ダンボール授乳室のチラシを参照。東北工業大学建築学部の女子学生が開発し、特許庁意匠権登録した製品HONEY ROOMとは別である。
*2安全配慮義務は、最高裁昭和50年2月25日判決で示された民法上に明文の規定がない義務で、損害賠償などの理由になりえる。なお、雇用主の安全配慮義務は、平成20年に労働契約法第5条には明記された。
*3用具室からトイレの個室内が盗撮可能な状態であることを放置した企業が、盗撮被害を受けた従業員に賠償をした事例がある。
*4二重カーテンにしたそうだが、のれんをつけた方が良かったかも知れない。
*5景観の悪化も評価すべきだが、道の駅は小奇麗であっても、特別美麗であるることは求められていない。
*6単価が59,800円と、立派な製品として例にあげられる297万円のmamaro社製品と比較して安い。
*7安全配慮義務があると看做されていることは、費用対効果の検証の結果、対策が必要だと社会的に合意がとれていることなので、あらためて費用対効果を検証する意義が小さい。
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