神社の樹木が傷つくこと以外に、丑の刻参りに道徳的に問題があるかを考えよう。他人に見られないように強い怨恨を発露する行為だが、呪われている相手はそれを知ることも無く平穏である。しかし、道徳的に問題があるかと考えた場合、あると考える人は少なく無いはずだ。他人に恨みを抱いた善人は考えづらい。
人々は他者の内面にも道徳を求めるし、悪意が露見する事を毛嫌いする。礼儀正しく社会性が正しい人物であっても、毎夜、毎夜、丑の刻参りに出かけて隣人を呪っていることが明らかになれば、善人ではなく偽善者と言う扱いになる。差別的、もしくは独善的なことが分かるちょっとした失言で、評判を落とした著名人は少なくない。
さて、ネットの片隅で、表現の自由戦士とペドフェリア嫌悪者が、女児型ラブドールの是非について論争を繰り広げている。女児型ラブドールの利用が児童への性犯罪を誘発するというエスカレーション理論が主な論点と捉えられているようだが*1、それは女児型ラブドールを否定するための口実に過ぎない。根拠が無いと指摘されても結論は動かないから分かる。実際は、ペドフェリア嫌悪者は他者の内面のあり方について問題にしている。つまり、彼らから見て、小児性愛そのものが不道徳であり、その欲求を隠さない振る舞いは、善人であろうとすらしない悪行だ。
小児性愛者がラブドールで欲求を充足し、性犯罪の被害にあう子どもがいなければ、古典的自由主義者やリバタリアンであれば何の問題もないし、功利主義者など帰結主義者であっても概ね満足すべき*2世の中ではあるが、義務倫理に従う人々からするとそうではない。法で規制されているからと言う理由で欲求を抑制したり、ラブドールと言う代替物で気を紛らわしたりするのは、道徳的ではないのだ。不道徳な行為に手を貸す女児型ラブドールの販売や流通も、不道徳。格率(道徳律)を無条件に疑いも無く実行するのが最上善*3。それが無理でも苦しみ抜いて格率を死守すべし*4。人間の内面の高潔さを求める倫理もある。カント曰く、そもそも自慰行為がそもそも不道徳である*5。全人類の過半数に「あなたの性的嗜好は罪深いものだ」と言ってのける偉人カント。ついでに、徳倫理でも不道徳と予想される*6。
反転可能性が~などと知っている道徳的基準を言いたくなるかも知れないが*7、反転可能性はある。カント流の倫理は、普遍化可能性を突き詰めたものなのだ。「私がもし小児性愛者だとしたら、小児性愛者でなくなろうと努力するし、そのように思われる行為はしない。」と主張されれば、反転可能性テストは満たされる。こういうわけで、犯罪などへの影響が明確でない現状においては、道徳的には拠って立つ倫理に大きく依存することになるので、議論が平行線になることは約束されている。悪いことの基準が違うのだから。
批判レベルの道徳的問題から、論点を移したほうが建設的。ペドフェリア嫌悪者の主張には、人権の面から問題がある。批判レベルの道徳的判断については上述の通り、拠って立つ倫理によって結論は変わるわけだが、直観レベルの道徳的判断を担う人権や法律といった観点から考えると、女児型ラブドールの販売や利用は問題にならない。女児型ラブドールは、女性の生存権は勿論、性の自己決定権なども侵害しない一方、日本国憲法で保障されている幸福追求に関する自由権を考えると、むしろラブドール規制の方が人権侵害になりかねないからだ*8。
*2ペドフェリア嫌悪者が感じる不快感は快楽計算のマイナスになるが、小児性愛者の欲求解消を相殺する大きさとは言えない。
*4小児性愛者は、自分の性的嗜好が罪深いものだと認識し、傷つきながら生きていくことが道徳的と言うことになる。むしろ苦しんだ分だけ、道徳的な意義が生じる。
*5カント先生とセックス (5) オナニーも禁止です | 江口某の不如意研究室
*6優れた徳を持つとされる人物がラブドール愛好者であった事例を聞いたことがない。
*7形式をとらずに乱雑に使われる傾向がある(関連記事:普遍化可能性がありえる主張は、“反転可能性テスト”をかけても抑制できませんよ,ネット論客の青識亜論氏の反転可能性テストが、よく考えると成立していない件)
*8実在人物にそっくりな女児型ラブドールが出てきたら児童ポルノ禁止法違反になる可能性は高く、すべての女児型ラブドールの存在が認められているわけではない(わいせつ写真のCG加工で児童ポルノ禁止法違反 「モデル実在ならアウト」は初のケース: J-CAST ニュース【全文表示】)。
成人女性そっくりでも、コラージュ画像と同様に、名誉毀損や肖像権侵害、パブリシティ権侵害などになる可能性がある(有名人の「コラ画像」を作ってネットで公開したら・・・法的に問題になるの? - 弁護士ドットコム)。
また、人工知能技術の進展で、ラブドールが自意識を持ったら別の問題も生じうる・・・かも(関連記事:美少女セクサロイドは規制されるべきなのか?)。
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