国際決済銀行(BIS)のペーパーで、歴史的には世界はデフレでも成長している事を説明しているモノ*1が流れていたのだが、この世の問題を全てデフレに帰着しがちな人に読ませたいものとなっていた。1870年から2013年までの38の国と地域を対象にした分析を行い、大恐慌を除けば消費者物価の下落は経済成長に影響を与えているのか怪しい一方、資産価格の下落は影響を与えていると言えるそうだ。このペーパーを読む限り、そう頑張って脱デフレをする必要は無さそうである。
分析期間全体で単回帰分析をすると消費者物価と経済成長率に相関が無いわけではないのだが、大恐慌のある期間を除くか、資産価格も加えて重回帰分析をすると、消費者物価と経済成長率の関係い有意性は観察されなくなる。ボラティリティから見て粘性デフレ期だけを取り出しても、傾向は変わらない(右上図)。テクニカルには物価が経済成長率に与える影響と、経済成長率が物価に与える影響の両方が相互に生じる同時性の問題がありえるが、需給と物価のようにプラスとマイナスの影響が同時に出るわけではないので、重回帰分析で符号に有意性が無いのは影響が無いか小さいと言えるであろう。
理屈の上ではデフレが経済成長の障害になる事はあり得る。このペーパーでも、名目ゼロ金利制約による実質金利の高止まり、賃金の下方硬直性、債務負担の増加、さらなる物価下落を予測した家計の消費意欲の減退を問題点として挙げていた。しかし、実際にどれぐらいの影響が出てくるものかは良く分かっていない。このペーパーの分析でも、理論的にはフィナンシャル・アクセラレーターとして知られる資産価格の影響は鮮明に出ている一方で、消費者物価の影響はあるとは言えなかった*2。もしかしたら大恐慌の口伝が無ければ、デフレは政策課題にならない現象だったかも知れない。なお、日本は人口動態の影響を除けば長期デフレでも成長している例として、別枠で取り上げられている*3。
追記(2017/02/22 18:34):駒沢大学の江口允崇氏から「Atkeson and Kehoe (2004)で全く同じこと言ってませんでしたっけ。10年くらい前に既に結構議論になっていた気が。」とツッコミを頂いた。
*1Borio, Erdem, Filardo and Hofmann (2015) "The costs of deflations: a historical perspective," BIS Quarterly Review
*2関連記事:マクロ経済ショックが長引くある理由
*3基準年が2000年で日米比較をしているのだが、日本の見栄えが良くなるようになっている。一人あたりGDPで米国に並んだ感があったのが1990年ぐらいだった。
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