ネット界隈のリフレ派で、FTPLとリフレーション政策の中核である量的緩和が親和的だと言い出している人がいる。FTPLを使ってインフレ誘導ができると聞いて、インフレ誘導策であるはずの量的緩和と方向が同じと発想したのだと思うのだが、FTPLの代表的論文にある数式を確認すると、そこでは量的緩和の効果は否定されている。
最近のFTPL伝道師、ノーベル賞受賞経済学者のシムズ教授が参照しているWoodford(1995)*1の(1.2)式と(1.9)式を見てみよう*2。
一般向けの紹介だと、Wが国債のように説明されるので貨幣が入っていないように思うのであろうが、実は政府純負債で貨幣と債券の合算値になっている。ここに貨幣が入って来ないと、政府は物価上昇なく貨幣発行だけで財政を永久に賄えてしまうのだ。河越・広瀬(2003)の説明では、(モデル上、政府負債と一致する)家計保有資産として、誤解が少ないように表現していた。なお、マネタリーベースを増やした場合に右辺の貨幣発行益Δmが増加する可能性に気づくかも知れないが、ゼロ金利では支払い抑制できる金利はゼロなのでΔmもゼロである。
巧妙な手段で量的緩和が無効と演繹されたと言うよりは、モデルの仮定からそのまま言える範囲のことではあるが、標準的なFTPLでは名目ゼロ金利のときに貨幣供給量を増やす量的緩和は否定されている。量的緩和で実質金利が動くようなモデルに組み替える事ができれば親和的にできるのかも知れないが、それはかなり大変そうだ。
*1"Fiscal Policy, Monetary Policy and Central Bank Independence"で言及されている。
*2シムズ理論では云々とFTPLを説明している自称経済学者を見かけたのだが、シムズ教授がFTPLを構築したとはちょっと言えない。
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