2017年2月22日水曜日

FTPLでも財政破綻はする

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将来的な基礎的財政収支の黒字化を否定する人は少なくない。増税せずに財政赤字を放置してもインフレになるだけなので財政再建不要、日銀が国債を買って通貨供給すれば財政再建は完了などと言うような主張を聞いたことがある人は多いと思う。最近、こういう事を言ってきた人がFTPLに言及しているのを見かけるのだが、FTPLは彼らの説の強化には使えない。何か勘違いしているようだ。この理論、最後はあっさり財政破綻する。政府余剰の割引現在価値がマイナスになったらゲームオーバーで、幾ら物価が上がっても均衡しない。

学術論文にある複雑なモノはともかく、家計と政府の二部門経済などシンプルな仮定を置いた教科書的なモデルでは、パラメーターを幾つか仮定して数値演算するのは難しくない。

河越・広瀬(2003)の説明のモデルを踏襲して、上の三本の式から数値計算を行なってみた。名目金利を3%で固定、実質金利を1%、インフレ率を2%、家計の効用関数のパラメーターをη=0.3、φ=0.0075、毎期の家計消費300、家計資産1000で、基礎的財政収支によって物価水準がどう動くかを見ていこう。基礎的財政収支が毎年±0のときの物価を1とすると、-0.01で1.11、-0.05で2.05、-0.08で5.50、-0.09で12.60となる。-0.0978で政府余剰の現在割引価値がマイナスになるので財政破綻となる。

名目金利を下げると、基礎的財政収支の赤字の余地が大きくなる。実質貨幣需要が名目金利で決定されるように出来ているので、名目金利を下げれば利下げのマイナス分を上回って通貨供給量が伸び実質貨幣発行益が増加するからだ。しかし、名目金利には下限がある*2ので、低金利による財政運営には限度が出る。財政ファイナンス、つまり新発赤字国債を中央銀行が全て買い取り同額の通貨供給を行なう政策をとったとしても、名目金利に下がる余地がなくなると政府余剰はほとんど改善しない*3

日本政府の財政収支はかなりの赤字で、増税が行なわれず今のまま行くことが政府と国民の共通理解になると、FTPLの文脈では瞬間的に解決不可能な不均衡が生じる事になる。FTPLはそうなったときの世界を語ってはくれないのだが、ジンバブエの通貨消滅と似たような状況になると解釈すればよいであろう。回避したい事態である。日本経済に似せた上のパラメーターからすると、恒久的な毎年の財政赤字は1000億円も許されない。2016年度は基礎的財政収支は10兆円以上の赤字と見込まれる。FTPLを振り回すことは、遅かれ早かれ財政再建は必要と主張することと同じだ。

*1貨幣需要が入った線形分離可能な効用関数の妥当性の是非は色々あるだろうし、名目金利1%のときの貨幣需要が100ちょっとになるように、ηとφをそれっぽく決めただけなのでパラメーターも胡散臭い。

*2FTPLの枠組みで考えれば、実質貨幣需要の逆関数の形状から、実質貨幣量に対して金利が急速に逓減していき下界で収束する。低い名目金利を達成するには、膨大な実質貨幣量が必要になる。しかし、名目貨幣量は家計保有資産の分までしか増やす事はできず、金利減による物価下落にも限度があるため、一定以下の名目金利を達成する事ができない。名目金利を低くしすぎると中央銀行が債券を買いつくして、家計保有資産の全てが通貨になると解釈しても問題ないであろう。

中央銀行が家計に融資して実質貨幣供給を増やす方法まで考えることもできるが、生産一定で家計所得が一定である事を考慮すると、モデル外の議論にはなるが、それでも実質貨幣発行益には限度があると考えるべきであろう。

*30期の実質貨幣供給量に上限があるとして、1期以降は毎期、財政赤字の分だけ実質貨幣供給量が増加していくとして計算した。財政ファイナンス中の実質貨幣発行益の現在価値を計算すると、名目金利が下がる余地が大きい近い未来では実質貨幣発行益が飛躍的に高まっていくが、名目金利が下がる余地が小さい近い未来ではピークアウトして逓減していくので、数値計算するときは注意されたい。なお、0期の名目貨幣量が上限で、1期以降は毎期、財政赤字の分だけ実質貨幣供給量が増加していくとすると、マネタリー・ターゲットと同様に不安定な経済になる。

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