2015年2月1日日曜日

統計で嘘をつく方法でアベノミクスを擁護してみる

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宴会芸程度の話なのだが、統計で嘘をつく方法を駆使してアベノミクスを擁護してみよう。先日のエントリーに対して「擬似科学ニュース」が色々と考察した上で、12ヶ月単純移動平均で見ると2013年1月から就業者が増えていると指摘してきた。この指摘は数字をそのまま見れば正しいのだが、12ヶ月単純移動平均がトレンド転換を反映するのが遅いことを忘れている。そしてアベノミクスを擁護するのであれば、もう少し小難しくて、それらしい方法がある。

1. 12ヶ月単純移動平均はレスポンスが悪い

12ヶ月単純移動平均(当月と11ヶ月前までの単純平均値)だと、以下のようになる。2012年2月が底になる。

滑らかで目視でも議論しやすいし、手法も明確なので便利なのだが、過去の大半は悪化していて当月から改善しだしたときに、やはり悪化しているように見えることが多い欠点がある*1。レスポンスが悪いので、移動平均で2013年1月や2月が底だとしても、本当の転換点はもっと前になる*2。解釈には気をつけないといけない。

そして、そもそも雇用は景気の遅行指数なので、アベノミクス開始直後に転換点があるのは奇妙だ。

2. AR(1)で嘘をついて^H^H^H^H^H擁護してみよう

ダメだしばかりでネガティブなので、一つアベノミクスを擁護してみたい。実はあるリフレ派の人が季節調整済の就業者数の推移に二本の回帰直線を引いていたから、ああいう分析になっただけで、もっと他の方法を取ることもできる。

時系列データの分析には、自己回帰モデル(AR)と言うのがある。過去の値と撹乱項で現在の値を説明していく方法で、過去の一つの値(1期ラグ)で説明するものは特にAR(1)と呼ぶ。定常値周囲を観測値がさ迷う計量モデルだ。これを季節調整済データに当てはめよう。

トレンド転換ではなくて定常値が動くのだが、2013年8月から62万人ほど上方シフトしている! ─ 推定結果の係数のP値も1%有意だ! ─ ひゃっほー!アベノミクス後に雇用が増えた!

厳密には単位根が棄却できていないのでモデル不適合の可能性はあるし、そもそも長期的に就業者数がAR(1)なのかと言う問題もあるのだが、それっぽい議論は可能になる。

3. ランダムウォーク過程と見なすと雇用改善なし

単位根が棄却できていない、つまりランダムウォーク過程である可能性が排除できない事は、かなりの注意が必要だ。この過程に従うと見なすと、一見、2013年2月からドリフト項が転換するのだが、統計的な有意性がなくなる。保守的に解釈すると、ここ5年間で明確な雇用改善点はなしと言う事になる。

4. 傍証も見ていく必要性

計量分析は方法によって、結論が変わる。上で一番形式的に正しい話はランダムウォーク過程なのだが、絶対正しいとも言い難い。傍証として年次データでも変化が見られる有効求人倍率、民間投資、銀行貸出も確認した上で結論を出したのは、こういう事情がある。なお、因果関係を分析は、様々な要因に左右されるので単純なグラフでは何とも言えない。ある政策の実施後に何かが上がった下がったと言う議論は、大雑把な話でしかないのでご注意を。

*1以下はトレンドが変化して行くときの季節調整値(Loessアルゴリズム)と12ヶ月移動平均をシミュレーションしてみたものだが、移動平均は半年ぐらい遅れていることが分かる。

*2非季節変動値が移動平均でもレスポンスが良くなる階段状である可能性が気になるかも知れないが、就業者数の季節調整値は階段状ではない。

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