世宗大教授の朴裕河氏の「それでも慰安婦問題を解決しなければいけない理由」と言うエッセイが流れていた。内容からして、韓国人向けに書かれたもののようだ。韓国人の知識人の見解として参考になる面は多いのだが、現状認識に精緻な面がある一方で、見通しの甘い解決策が気になった。日韓の条約の文面や韓国司法の判断をあわせて考えれば、韓国世論の軟化を期待しても意味がなく、日韓請求権並びに経済協力協定にある仲裁委員会の設置、国際司法裁判所への共同提訴ぐらいしか平和的な解決策はないように思える。
精緻な面と言うのは、韓国の慰安婦運動が正確な情報のみに依拠しておらず、日本の反発の根源が慰安婦についての表現に、事実とかけ離れたものがあったと看破している点だ。さらに慰安婦が売春婦であったか否か、日本軍が人身売買に関わったか否かに関係ない議論で、日本政府の責任を主張している。
朴氏の議論であれば、史実の面からは主張は崩れない。曰く、従軍慰安婦は「日本帝国主義」によって戦地に「動員」されて苦労をした*1が、朝鮮人日本兵へは補償金が配分されているのに、日本の補償と謝罪がなされていないので、倫理的に問題だそうだ。法的強制ではないので法的責任は問えないが*2、日本は倫理的責任を負うべきだと主張されている。
日本のネトウヨも、韓国の活動家もなぎ払っていて興味深い。もちろん、朝鮮人日本兵への補償金は恩給の代わりとも言えるし、民間人で戦地で苦労した人は他にもいるので、従軍慰安婦に補償金を払う倫理的根拠を理解できない人は多く出るであろう。また米系メディアなどが前提に置いている、あらゆる売買春が人身売買を助長する*3と言う「戦場での女性の人権」とも一線を画しているのは興味深い。
しかし解決策の見通しは甘い。もはや「法的責任」要求を諦めて「アジア女性基金」のような解決策を受け入れようと言うのは、韓国では憲法違反になってしまう。「法的責任」要求に無理があると同時に、「法的責任」要求を取り下げることも無理があるわけだ。朴氏の主張は、5年前ならばともかく、今となっては夢想的である。
とことん「法的責任」要求をする事を、推奨したほうが良いのでは無いであろうか。「日韓請求権並びに経済協力協定」では、日本と韓国が条約解釈に揉めたときに仲裁委員会を設置できることが規定されている。他にも国際司法裁判所(ICJ)での解決を目指す方法もあるはずだ。韓国が勝てば従軍慰安婦問題は解決するし、韓国が負けても外交努力は尽くしたと言う事で、韓国政府は「法的責任」要求を諦める事ができる。
二国間の問題を、第三者に決めてもらうのは日韓双方にリスクが大きい。しかし、日本から持ちかけることは無いにしろ、韓国側から見て他に選択肢は無いように思える。日本も韓国以外のフィリピン、台湾、オランダ、インドネシア、オランダに、河野談話とアジア女性基金と言う解決策を提案し、韓国以外では受け入れられているので、いまさら態度を変えるのは難しい。従軍慰安婦問題の解決がしたければ、韓国側から国際司法に持ち込む必要がある。
*1(a)朝鮮の10倍稼げると聞いて戦地の慰安所に来た遊女は「動員」されたと言えるのか、(b)従軍慰安婦の境遇は当時の本土や朝鮮の遊郭と比較して苛酷と言えたのか、(c)『植民地的な貧困とともに、このような背景も多数の「朝鮮人慰安婦」を生み出した』と言う認識は日本統治化で経済発展していたことと矛盾しないのか、(d)「3、日本の「否定」の問題」の朴氏が指摘する客が朝鮮人慰安婦に抱いていたかも知れない感情は性的暴力と言えるのか疑問はある。
*2『言ってみれば同様に戦争に動員されたのに、慰安婦女性のための法は存在しませんでした・・・日本に対し「法的な責任」を問いたくても、その根拠となる「法」自体が存在しない』と説明されている。ここでの「法」は戦前の日本政府の公式の命令のことのようだ。
*3米連邦法TITLE 18/PART I/CHAPTER 67/Sec. 1384 "Prostitution near military and naval establishments"で、米軍施設近辺での“Prostitution”は禁じられている。
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