SNSでよく言及されている気がする『戦争の経済学』を拝読してみた。端的に言うと、教科書的なミクロ、マクロの経済学で戦争を分析する教科書。章末に練習問題もついている。こう書くと非経済学徒向きでは無いように思えるが、説明に使う経済学の用語や観念は説明されるから、非経済学徒でも問題は無いであろう。しかし、かなりモヤモヤした読後感がある。戦争の本なのに、臨場感が無いのだ。
この本、広汎なトピックが網羅されている一方で、それぞれ理論的な説明がされる。このため、理論整然とした分析が示される一方で、実証的な記述は淡白だ。また構成も、個々の戦史を分析していくのではなく、一般化した事象として戦争経済、防衛支出、安全保障を論じていく。そして、開発途上国で内戦や紛争が起こりやすい状況についての話はあるのだが、基本的に戦争の発生と終結の過程も分析されない。だから、戦争は人間が起こす事象なのだが、この本では災害的なもののような感じがする。訳者のつけた付録がそういう分析になっているが。
内容的には示唆するものは多い。理由を考えずに、戦争は景気をよくすると信じているタイプの人は読むべきだと思う。特に第二部にある基地が撤去されたときの地域経済への影響、徴兵制の分析、兵器調達の分析は、日本の防衛問題でもよく議論される部分になる。しかし、全般としてはあっさりしているので、軍事マニアや戦史マニアの人には物足らない気がする。そういう人にとっては、戦争を通して経済学を勉強する教科書として良さそうな気もするのだが。
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