朝日新聞の元記者・植村隆氏が従軍慰安婦問題、特に従軍慰安婦が女子挺身隊として強制連行されたと言う捏造記事を出し、日韓両国に大きな影響を与えたかのような言説を見かける*1のだが、日時に注意すると説得力が無い。植村氏の記事以前に、問題とされる言説は確認できる。当時も今もタイムマシンはまだ発明されていないはずだ。
1. 植村氏の記事の前に誤解は広まっていた
植村隆氏の記事が出たのは、1991年08月11日だ。韓国でもっとも猛威をふるう圧力団体である韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が設立されたのは、1990年11月16日。読売新聞が用語解説で、女子挺身隊の名の下に従軍慰安婦にされた人がいると記述したのは、1987年08月14日。朝日新聞の松井やより記者が、韓国の新聞の「私は女子挺身隊」と言う連載を読んで元従軍慰安婦の事を知ったと書いたのが、1984年11月2日*2。千田夏光氏が著作「従軍慰安婦」で、女子挺身隊のうち従軍慰安婦にされた人が多数いると記述したのが1973年。
今となっては、植村隆氏の記事は多くの誤りと誤解を招くものであったのは間違いないが、単に当時の常識を踏襲したものに過ぎず、挺対協の設立などに影響していないのは確かだ。松井やより氏の記事も、韓国の報道に追随したものとあるので、朝日新聞がデマの発生源とは言えないであろう。なお、千田夏光氏の責任が重いわけだが、朝鮮半島では女子挺身隊が何か理解されていなかったらしいく、戦時中も官斡旋の勤労報国隊が従軍慰安婦にされたと言うデマが流れていたそうで*3、誤解した事自体に不思議は無い。
2. 強制連行を前提としたイメージを保持し続けるのは問題
朝日新聞が無実だとは言えない。問題は二つある。一つは、個々の記者が裏づけ調査を怠ったこと。80年代にもなると、当時の朝鮮半島がどういう状況だったか想像が効かないので、記事や証言の怪しさに気づかなかったのだと思うが、だからこそ当時の資料を漁る、当時の日本人にもインタビューする、官公庁に問い合わせるなどの努力が必要だった。一つは、吉田証言などの強制連行の証拠の信憑性が無くなったときに、強制連行を前提として描いてきた全体像を見直さなかったこと。誰が朝鮮人女性にどうやって従軍慰安婦であることを強制したのかと言う点を、曖昧にするようになった。
戦時中の非道な行為は、全て同じ重さの罪ではない。「日本軍の兵隊がいたいたけな朝鮮人少女を強制連行して従軍慰安婦にした」のか、「女衒が貧困家庭の少女を芸妓稼業契約・前借金契約で買い取って遊女にしたのを、よく取り締まらなかった」のかで、罪の重さは異なる*4。前者だと思っていたら、人道に反する罪として国家賠償が必要だと思う人が多く出ても不思議は無い。しかし、後者だとしたら、そこまで重い罪だとは思わない人が多いであろう。そして事実関係を曖昧にした論法は、「女性の人権問題」からの従軍慰安婦問題の理解も妨げる。芸妓稼業契約・前借金契約が問題なのに、強制連行に基づいたイメージを語られたら、虚偽の主張に思えてくるからだ。第三者である欧米人にはどうでも良い違いだろうが、日韓ではそうではない。
朝日新聞が吉田証言を撤回した事で、慰安婦問題自体が否定されつつあるような印象を持つ人もいるようだが、強制連行を前提としたイメージが崩れさるのは仕方が無い。しっかりと芸妓稼業契約・前借金契約を原因とした女性の人権問題を主張できれば良いのだが、強制連行を前提としたイメージを捨て去らないと説得力は持たないであろう。しかし今のところの朝日新聞は、まだまだ誤魔化す気のようだ。「強制連行 自由を奪われた強制性あった」と言う記事を見てみよう。
日本の植民地下で、人々が大日本帝国の「臣民」とされた朝鮮や台湾では、軍による強制連行を直接示す公的文書は見つかっていない。貧困や家父長制を背景に売春業者が横行し、軍が直接介入しなくても、就労詐欺や人身売買などの方法で多くの女性を集められたという。
これでは軍が売春業者に就労詐欺や人身売買などの方法で女性を集めさせたように誤解されてしまう。実際は、陸軍が誘拐を行なう業者を排除しようとしていた*5ことから、集められた女性の中に就労詐欺や人身売買などの被害者が少なくなかったと言う話であろう。まだまだ朝日新聞は強制連行に基づいたイメージを捨てられないわけで、まだまだ朝日新聞は叩かれ続けるのだと思う。
*2「92年1月の用語解説記事に拘る前に」で植村隆氏の記事以前の記事を紹介している。「朝日新聞のダメ押し捏造発覚…血迷った反日謀略機関 東アジア黙示録」に、朝日新聞のコピーが掲載されている。
*3「慰安婦と戦場の性」のP.169あたりに記述がある。
*4売春需要を高めることが、人身売買取引を誘発すると言う議論もある。
*51938年3月4日の陸軍通達があり、これは朝日新聞も慰安婦募集に関する日本軍の関与を示す資料だとして報道している。
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