2018年9月13日木曜日

「集合と位相」をなぜ学ぶのか ― 数学の基礎として根づくまでの歴史

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数学を真面目に使おうとすると避けては通れない集合と位相だが、その教科書を読むとやや抽象的なきらいがあって気が滅入る傾向があり、必要になったときに学べば良いのでわざわざ講義を設けるほどではないと言っている著名数学者もいる*1

どのみち必要になるので悩む前に学べと言うのが大方の見解だと思うが、それではちょっとつれないと思われるかも知れない。今後の見通しが欲しい初学者がいたら、よい補助教材が出ていたので紹介してあげよう。

1. 必要性と絶対に覚えるべき事が学べる数学読本

「集合と位相」をなぜ学ぶのか』は、2つの方向から数学史を追って集合と位相の必要性を説明してくれる本だ。普通の集合と位相の教科書であれば、第3章「実数直線と点集合」、第4章「平面と直線は同じ大きさ?」、第5章「やっぱり平面と直線は違う」と第7章の最後のところを膨らませたと思うが、本書は歴史的事情、つまり解析学の発展との相互関係、数学の一般化・抽象化による影響に触れることで、集合と位相の必要性を示そうと言うものになっている。

第1章『フーリエ級数と「任意の関数」』、第2章「積分の再定義」、第6章「ボレルの測度とルベーグの積分」で、フーリエ級数展開から極限と積分の交換から始まる数学史の展開を辿ることで、数学の発展とともに積分の再定義が求められ、そのために集合と位相が整備されて測度という概念が生まれて、それを用いて極限と積分の交換ができるルベーグ積分が構成され、さらに公理的確率論につながっていったことが分かる。第7章は、数学が一般化・抽象化することで発展してきたこと、抽象的なものから具体的なものを論証するスタイルがブルバキの構造主義の中で徹底され、ユークリッド空間を離れて位相構造が定式化されたことが紹介される。

解析学と集合と位相をつなぐ横断的な内容のためトピックは絞られたためであろうか、前書きを読むと「教科書になりませんでした」とある。しかし、それだからこそ知らなくても良い項目はなく、これから大学で数学を学んでいく人に有用な筋立てになっている。また、数学史にはなっているが、人物史が主と言うことは全くなく、定義を解説して定理を説明し、全てではないが証明を与えている。数学読本になるように証明方法はなるべく単純になるように工夫されている部分もあるようで、ハイネ・ボレルの定理の証明はRnでは無くなったりしていたが、Rでもあると無いとでは随分と違う。少なくとも読み込んでいける数学読本なのは間違いない。

なお、非直観的な話のせいか、注意深く読まないと混乱してくるところはあるのだが、日本語は丁寧で説明は理解しやすいと思う。著者略歴を見るとキューネンと言う単語が見えて不安だったのだが、無問題であった。

2. 教科書に書いていないことが書いてある

前書きに、講義の余談を集めたとあるので当たり前かも知れないが、集合と位相の本は読んだ事があるはずなのに、知らないことが色々と書いてある。誰が何の仕事をしたのかだけではなく、どこまで仕事をしたかのかまで紹介してある。各章のトピックのつながりの説明に、人物史的なストーリーをつけているのも特色だ。

第4章で集合の基本用語の説明が丁寧にしてあって、ベキ集合がなぜ冪と呼ばれるのか、いまさらその理由を知った*2。確認したのだが『集合・位相入門』にも『集合への30講』にも書いていなかった。代数的な実数と超越的な実数の違いなども、まったく記憶になかったのだが、こちらは『集合・位相入門』(p.76)の問題にあった。「超越的な」は無かったし、本書の方が説明は平易だが。

3. 社会科学系の学部生にも推奨できる本

数理科学系の新入生を念頭に置いた本のようだが、そうではない分野の大学院進学を考えている社会科学系の学生にも推奨できる本。最初のフーリエ級数に親しみを感じないかも知れないが、そこは細かいところは流し気味で良いので、学部一般教養の微分・積分の講義と平行して読むべし。そのうち公理的確率論に出会う可能性は高い。集合・位相を既に学んだ人でも、数学徒でもなければ忘れている事も多いだろうし、別角度で説明されると理解が深まる事もあるだろうから、本書を手に取る価値はあるだろう。なお、若干、日本語の文意が取りづらいところ(p.195L3)があり、素イデアルの説明が欲しかった(´・ω・`)ショボーン

*1数学をいかに教えるか」のどこかに書いてあった。

*2説明されると、言われなくても気づけよオレ…と言う感じはある。

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