2018年3月2日金曜日

ある医学雑誌で報告された加熱式たばこが排出するニコチンの量のイカサマ感

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加熱式たばこ/電子式たばこの害悪については、有害性がよく研究されている燃焼式たばことの比較が手っ取り早い方法だ。たばこ会社は、有害物質の排出量が圧倒的に小さいとアピールしている*1。もちろん、利害関係者の出して来た数字をそのまま信じる必要はなく、有害性を訴える側の数字と付き合わせるべきであろう。権威のある医学雑誌に掲載されたある報告が、規制強化支持者に紹介されていたので中身を見たのだが、統計的にはトンデモであった。

問題の論文*2、加熱式たばこのアイコス(iQOS)と従来式の主煙中の有害物質の量を計測し、比較しているシンプルなものだ。加熱式と言ってもニコチンは従来比84%で16%しか削減できておらず、他の有害物質も排出されていると言いたいのだと思うが、何だかかなり微妙な結果になっている。分析結果の表を見てみよう。

一見それらしく比較されているが、計測回数(No. of Replications for Each Assay)と標準偏差(SD)に注意して欲しい。そう何度も計測していないことが分かる。

特にニコチンに注意して欲しい。平均値(Amount, Mean)は加熱式が301、従来式が361なのだが、隣のカッコ内の標準偏差は加熱式が213で、従来式は無しである。従来式は、1回しか計測していないからだ。加熱式の標準偏差213は、かなり大きい。計測回数4から自由度3のt分布になるので95%信頼区間を出すと-38μg~640μgとなり、ニコチン0ですら棄却できていない。これだけで従来比84%の信頼性は揺らぐのだが、比較対象の従来式たばこのニコチンの量も同程度の標準偏差が予想されるわけで、統計的には全く信頼が置けない数字になっている。

他にも気になることは多い。燃焼式たばこの温度(Temperature)の標準誤差、計測回数1回で計算できないはずだが、684(197)と書いてある。分子と分母があるのにCarbon dioxideとCarbon monoxideがNAになっている。">9000"と書いてある所があるのだから、"<33.97"と書いても良かったはずなのだが。そして、ニコチンを計測したのにタールを計測しなかった謎が残る。計測機器が希少だったりするのであろうか。

論文著者の統計解析の知識もしくは注意力は、学部生程度と批判せざるをえない。査読方式なのかが分からないのだが、もしレフリーがいたとするならば何も仕事をしていない。そして、この論文を肯定的に紹介や引用した人々は、論文の中身を批判的に吟味していない。たばこ会社が研究者に資金を出して統計分析を操作していると非難するのは良いのだが、たばこの害を言えれば数字は何でも良いとはいかないであろう。もう少し真面目に仕事をして欲しい。

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