大学の一般教養で習う数学は解析学と線形代数なので位相幾何学には縁遠い人が多いと思うが、人文系で用語が濫用される数学の分野と言えばトポロジーなので、ネット界隈で現代思想を標榜する論者を陰で笑うのには有用な知識だ。それどころか真面目にホモロジー群まで理解すると、ブラウアーの不動点定理と言う広く応用されている定理まで行き着ける*1。数物系の世界なのでどうやって学ぶかが難点なのだが、『トポロジー:やわらかい幾何学』と言う古めの本を手にとってみた。
数学徒の呟きを見る限り、推奨できる範囲のゆるふわ系で、概略を知るのに丁度良さそうである。実際、事前知識として線形代数と群論のイロハがある方が望ましそうだが、たぶん無くても読み進められる。図も豊富。計算過程も丁寧。図3.62の説明が、途中で終わっている気がする。ポアンカレ予想が未解決の頃に書かれた本で、そこの説明は勿論、古くなっている。ペレルマン偉大。大判なので持ち歩きづらいし、手元のスキャナーではPDF化しづらいのが難点。初版本を見たせいか細かい誤植があるが、どん詰まりになるほどではない。ついったー民で読んでいる人が少ないので寂しい。
たぶん、そんなに難しくは無いし分量的に薄いと思うのだが、慣れ親しまない概念が出てくるので心の抵抗が大きい。証明無しに角ばった図形を見て球面と思わないといけない。人間、図形を考えるように出来ていないのか。細分と導細分のような注意深く区別をつけない単語が色々あってつらい。一次元、二次元のトポロジーで切ったり貼ったりする操作で、こんな事していいのか感がある。第4章まではオイラー・ポアンカレの定理と二次元に埋め込めるのかどうかがポイントになっていて、オイラーの(多面体)公式で正多面体が5種類しかない無いことを証明できるのを読むと何か便利そうなのではあるが、それでも埋め込みにかける情熱が謎である。
本書の最終的な終着点は、ホモロジー群の概念を第5章で理解し、実際にホモロジー群の計算ができるように第6章でなる事で、頑張ったらユークリッド空間の次元の不変性とブラウアーの不動点定理まで辿りつける。ホモロジー群の位相不変性の証明については省略されているし、煩雑そうな部分が割愛されているわけだが、幾何学の話に代数的に処理できるようにホモロジー群を構成す仕掛けを理解するのには十分であろう。中学校ぐらいで縁が無くなった幾何学も、こういう風に広がっていくんだなと感じる事ができる*2。トポロジーのポエムを呟きたい人には自戒のためにお勧めしておきたい。意味もなくr-チェイン萌えと呟きたくなるが。
*1他にも何かありそうだが、浅学にして寡聞なので知らない。
*2ガウス・ボンネの定理で位相幾何学と微分幾何学がつながるような話を読んでも良いのだが(関連記事:「曲がった空間の幾何学」で掴みは万全)、やはりホモロジー群と言う単語は、雑学にしかならないわけだが理解しておきたい。
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