2018年1月28日日曜日

小中学生のワクチン集団接種で日本全体がインフルエンザへの集団免疫を獲得していたとは言えない

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HUFFPOSTで『インフルエンザ大流行。日本から失われた「集団免疫」とは?』と言う記事が出ていて、「30年前、小中学生の集団ワクチン接種で日本の社会にインフルへの免疫ができていた」と主張している。小中学生のワクチン接種率が小中学校の学級閉鎖回数に影響するというKawai et al. (2011)と、ワクチン接種率が肺炎とインフルエンザによる死亡率を引き下げると言うReichert et al.(2001)を参照しているのだが、これらの論文は学校の集団ワクチン接種が社会全体の集団免疫の獲得に成功したと主張できていない。

1. 集団免疫なくても学級閉鎖は防げる

Kawai et al. (2011)が参照しているデータは、大雑把にだがワクチン接種が学級閉鎖の可能性を引き下げる事は示せている。計量分析が無いので示されたデータをトービット分析にかけて確認してみたのだが、有意に学級閉鎖を引き下げる効果を持つ。流行年の場合、ワクチン接種希望者が増える可能性もあるが、接種率はそう上下しているわけではないし、流行だからと言ってワクチン生産が急に増やせるわけでもないから、同時性も無いと言い張れるであろう。小学校のクラス数が減っているから学級閉鎖の数の持つ意味が重くなっている一方で、クラスあたりの人数が減っていて学級閉鎖が出やすくなっていることが調整されていないのは目を瞑ろう。

しかし、集団免疫については実は何とも言えていない。ワクチン接種は個人の免疫力をあげるわけで、集団免疫がつかなくとも学級閉鎖の確率を引き下げる。単に感染率が低下して欠席者が減って学級閉鎖が生じなくなっているのか判別がつかない。また、Table 1に東京における患者数の数字(No. of influenza cases/wk/sentinel)が掲載してあるが、こちらとワクチン接種は有意な相関は持たなかった。もっとも他の地方とつながっている東京は、流行のチェック地点に相応しいであろう。小中学生のワクチン接種率を高めても社会全体の集団免疫を獲得できなかった事が分かる。学校から子どもがインフルエンザ・ウイルスを貰ってこなくても、職場や通勤途中にインフルエンザ・ウイルスに接触するのである。

2. 最低でも年齢調整(age-adjusted)は必要

Reichert et al.(2001)の方は、ワクチン接種率が肺炎とインフルエンザによる死亡率を引き下げると言う主張で、本当は高齢者の接種率*1や小中学生の死亡率もコントロールすべしなのだが、小中学生への集団接種がワクチン接種率を大きく左右すること、肺炎とインフルエンザで死ぬのは大体年寄りであって小中学生ではないことから、話としては分からなくも無い。だが、致命的な問題がある。年齢調整(age-adjusted)した様子が無い。日本は少子高齢化が進んできているので、肺炎とインフルエンザに弱い人々も増えてきている。シーズン各月の前後3年の11月の死亡率の移動平均からの乖離の和を超過死亡率としているので年齢調整しているつもりなのかも知れないが、高齢者は特にインフルエンザ流行年に死にやすいので分散が大きくなると予想され、実際のグラフの動きはジグザグが大きくなっている。1990年頃から超過死亡率が上昇しても、1995年から一斉接種をやめた影響とは言えないのだ。2000年から、特に2004年からはまたワクチン接種率が高くなったので、そこで死亡率が下がっていれば、もっと説得力があるのだが。また米国の方は接種率と超過死亡率が関係なさそうで、主張を支えられていない

3. 集団免疫がなくてもワクチン接種すべき理由はある

集団免疫を獲得できなくても、個々が免疫を獲得できれば十分なので、無理に集団免疫を主張する必要は無い。子どもと一緒にインフルエンザを発症など悪夢だし、運悪く発症しても重症化の可能性を減らせると思えれば、それで十分魅力であろう。一般に飛沫感染のインフルエンザは3~4割の個体が免疫を持っていると集団免疫になると言われているのだが、ワクチン生産数から考えてその数の人間がワクチン接種がされているわけではない。仮に有効率が100%としても、集団免疫を獲得できる見込みは薄い。麻疹や子宮頸がん(の前がん状態)はワクチン接種で集団免疫を観測できているが、同じようにはなかなかいかないであろう。高齢者のいる家庭の子どもをランダムに対象群と制御群にわけてワクチン接種をして、高齢者のインフルエンザ発症率を比較するなどすれば効果が観測できるかもだが、倫理上の問題があるので実行できる可能性は低い。

*11990年代の数字が見つけられなかったのだが、2000年/2001年シーズンの17.1%から2010年/2011年の58.5%まで高齢者のワクチン接種率は上昇している(延原弘章・渡辺由美・三浦宜彦 (2014))。高齢者のワクチン接種率は大きく変動しうる。小中学生への集団接種を取りやめた時期に、高齢者への接種率も落ち込んでいたりすると議論の根底が崩れるので、本当はこちらも確認しなければならない。

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