2018年1月24日水曜日

農地の賃貸借の法的保護は生産効率と生産高を改善する

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VoxDevに"Land rights and agricultural efficiency"と言う、法と経済学の研究をしている人が喜びそうな計量分析の紹介が上がっていたので紹介したい。

経済学者は土地所有権に関する制度整備が、土地の利用効率を高めることを主張して来たのだが、実は数理モデルからの結論が主で、経験的に十分な裏づけが得られていたわけではなかったそうだ。先進国では法的整備が進んでしまっているし、開発途上国の制度整備も一斉に、もしくは整備できる所から法的整備が進むので、内生性にうるさい最近の統計的因果推論の基準から言えば、分析自体が困難である。

こういう分けで一般に研究は困難なのだが、偶発的に良いデータが得られるときもある。Chari, AV, E M Liu, S-Y Wang and Y Wang (2017)は、2003年に中国で借地権が認められる一方で、その施行が州ごとに異なり他の要因の影響を制御できることを利用し、農地の賃貸借の法整備の効果を分析した。生産効率の高い農家の労働・資本(土地)投入量と生産量が増し、低い農家の労働・資本投入量と生産量が減る効果結果の他、栽培植物の価格弾力性が増すなどの傾向も観察された。まとめると、生産効率の向上と生産量の拡大を促したと言える。

理屈どおりの結果が得られてツマラナイと思うかも知れないが、経験的な裏づけは重要だ。インフォーマルな契約監視団体が貸借契約の履行を監視していれば法整備の効果は出ないはずなので、本当に効果が出るのかはやはり謎であった。まだディスカッション・ペーパーなので分析に粗があるのかも知れないが*1、規制緩和や制度整備を正当化するために使いやすい研究になっていると思う。中国には2003年まで民法典が無かった上に、地域差と言うか混乱が色々とあるので農業以外でも同様の研究は今後、色々と出てくるであろう。今後は社会科学でもエマージングな存在になると予想される。

*1収穫一定の生産関数を仮定して生産効率を計測しているので、大規模農家の規模拡大を反映した結果である可能性があり、農業技術のある経営者が規模拡大をしたような話に解釈されると問題なので、ちょっと詰めて欲しい。ただし、適切な規模にする事も資源配分の改善であるから、論文の結論を覆すような話では無い。

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