2017年6月30日金曜日

原田泰日銀審議委員のナチスの経済政策の政治効果の認識でおかしいところ

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リフレ派(だったはずの)原田泰日銀審議委員が都内の後援会で述べた、ナチス・ドイツの経済政策の政治効果についての持論が取り上げられている*1。以前から繰り返している「インフレもデフレも悪いが、デフレの方がより悪い」*2と言う二元論的リフレ派論法の一つだ。色々と問題があるのだが、ネット界隈のリフレ派には「原田発言のどこが問題なのか全くわからない」と言い出す人がいるので、分かりやすい問題点を指摘しよう。ヒットラーは雇用改善の前に独裁体制を確立している。

日付の問題である。原田氏は「ヒトラーが正しい財政・金融政策をやらなければ、一時的に政権を取ったかもしれないが、国民はヒトラーの言うことをそれ以上、聞かなかっただろう」と言っているのだが、ナチスが第一党になるのは1932年7月で、ヒットラー内閣ができるのは1933年1月。次の選挙で大勝し、全権委任法で地盤を固めるのは1933年3月になる。政権取得後一ヶ月で政策効果が出たと考えることから無理があるが、この時期は失業率はまだ高めに推移している。

上は川瀬 (2005)「ナチスドイツの経済回復」からの転載だが、1932年7月~1933年3月の失業率は一年前と比較して同程度であり、圧倒的な支持を得るほど低いとは言えない。なお、設備投資や設備稼働率で見て、本格的に回復期に入るのは1934年以降である。全権委任法が1935年であれば、もう少し説得力がある説になったのだが。

もちろん独裁者言えども暴動やクーデターなどには悩まされるわけで、ナチス・ドイツの経済政策が治安安定に役立ったとは言える。しかし、経済政策の効果が出た頃には、ドイツの命運は大方決まっていた。

ナチス・ドイツは統制経済

不況の時に財政政策を行なって失業率を下げろと言うのは、分からなくも無い。社会民主党が財政赤字を許容としようとしたときに、後にナチス政権下で実質的な財政ファイナンスを主導するシャハトがそれを邪魔しなければ、社会民主党政権が続いていたかも知れない。しかし、ナチス・ドイツが行なった経済政策は、単なる財政金融政策ではない。統制経済への移行なので、これを“正しい財政・金融政策”と言ってしまってよいかは疑問だ。

失業者数の減少も、資本投資の抑制による実質賃金の抑制、女性の労働参加率の抑制、第一次世界大戦(1914年~1918年)中の出生率減少による新規就業人口の減少などの影響もあり、公共投資の効果だけではないことは良く指摘されている。統計操作で失業者数を低く見せかけようとした所もあるようだ。最後は労働力不足で移民を入れたりしているぐらいなので、雇用は確かに改善したとは言えるとは思うが。

ナチスが支持された理由

世論調査などが無い時代なので、ナチスが支持された明確な理由は分からない。しかし、第一次世界大戦で課せられた賠償金の削減案に反対し、賠償金自体を無くすベルサイユ条約の破棄を目指したところが支持を得たのも事実であろうし、社会民主党政権の内閣と与党の関係が悪く、政治機能の麻痺と有権者の不信を招いた事もよく指摘されている。原田泰氏の考える最強の経済政策と似たことをしていたからって、それで支持されたと言うのは、ちょっと我田引水過ぎではないであろうか。

2 コメント:

shirou9237 さんのコメント...

この記事は間違ってますね。原田氏は以前もヒトラー政権について書いていますが「①恐慌からの大不況の混乱の中、敵愾心を煽って政権を取った②経済政策がうまくいったのでその後の(冷静であれば国民も肯定するとは考えにくい)対外政策までも支持されてしまった」という順番。

だから失業率で言えばむしろ①の段階では高止まりしていて、ヒトラー政権後に急低下②し、その支持を受けて経済以外でも強硬な政策が後押しされていく、という流れ。失業率で見る限りは原田氏は正しいですね。

なのでヒトラーより前の人(つまり①の前の段階で)が正しい経済政策をしていたら、ヒトラー政権が生まれないか、仮に生まれても景気回復の支持をバックに突っ走る②のような悲劇までは至らなかったろう、という論旨ですね。

失業率低下が公共投資の効果かというと、そこにはいろいろな指摘がある、という部分は当記事は正しい。ここは議論があり得ると思います。ただ国民は経済指標とにらめっこし、分析をして支持不支持を判断しているというより、実感として雇用が改善し景気が良くなってれば、その号令を勇ましくかけている直近の政権を支持することは多いでしょう。

僕はリフレ派ではなく、各立場の経済学者の意見に目を通しているつもりですが、とりあえずそれぞれの論者の言ってることは捻じ曲げず理解し、その上で議論をしてほしいなと思います。

uncorrelated さんのコメント...

>> shirou9237 さん
1934年以降の失業率低下後のナチス・ドイツには国政選挙は無かったのですが、「国民はヒトラーの言うことをそれ以上、聞かなかった」としたら、どういうことが起きえたと思いますか?

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