2013年10月31日木曜日

旅行者のジレンマでゲーム理論の現実味を考える

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現在の経済理論は大きくゲーム理論、特にナッシュ均衡に依存している。ナッシュ均衡は科学分野の基礎方程式と異なり帰納的に得られた法則ではなく、公理から演繹的に議論しているものなので、囚人のジレンマのようにありそうな状況を描写できる一方で、全く現実味のない状況を主張することがある。その代表例が、「旅行者のジレンマ」だ。1994年に現在の世銀総裁のBasu氏が考案したもので、2007年に日経サイエンスで紹介されたものだが、昨日、Twitterで地味な話題になっていた。

米国パトカーの新装備でカー・チェイスはおしまいに

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映画でよく見るカー・チェイスは実際にも行われているのだが、逃走車両が歩行者や他の車両などと衝突する危険性がある*1し、追跡する警察車両も安全とは言えない。そんな追跡劇を減らすための新装備が開発されて紹介されていた(DVICE)。

2013年10月30日水曜日

難病患者の自己負担と予防インセンティブ

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文筆家で自身も難病患者である大野更紗氏が、厚生労働省の医療費自己負担限度額引き上げ案によって、難病患者を抱える家計が困窮してしまうと批判している。これに付け加えて、そもそも難病に対する公的支援の制度に問題があると、東京大学の松井彰彦氏も厚労省を批判している(朝日新聞)。

しかし、お二人の主張は良く分かるのだが、一つ大事な前提の説明が省略されてしまっている気がする。松井氏こそそれに最も詳しい人の一人なので気が引けるのだが、勝手に補足してみたい。

2013年10月28日月曜日

代表的個人を仮定しないと、均衡が無いわけではない

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経済評論家の池田信夫氏が「代表的家計と民主政治」と言うエントリーで、一般均衡理論についてソーカル事件を引き起こしている。「代表的家計について」でも同様の事を言っているので、ずっと誤解をしているようだ。

Sonnenschein-Mantel-Debreu定理に言及しつつ「社会に多くの異質な個人や市場があると、均衡は存在しない」と言っているのだが、これは定理の主張と異なる。定理は、均衡は存在するが一意とは限らないと主張している。また、ワルラス調整過程の前提に加えて、生産関数や需要関数に仮定を追加する事で、一意な均衡を得ることができる*1

2013年10月26日土曜日

労働需要はGDPの従属変数? ─ 古典的ケインズ経済学ですか

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経済評論家の池田信夫氏が『【再掲】需要と供給』で「労働需要はGDPの従属変数」と主張している。前半と後半の議論が続いているものかが良く分からないのだが、もしそうだとすると池田氏が学部レベルのマクロ経済学だとバカにしている古典的なケインズ・モデルになっている。

2013年10月25日金曜日

あるマルクス経済学者のプロパガンダ(1)

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マルクス経済学者の松尾匡氏が『「小さな政府」という誤解』と言う連載を開始している。しかし、平易な文章に見えるのだが、松尾氏は作為的に議論を混乱させているようだ。

学者の文章らしくなく用語や論点を明確にしないで、読者の感覚に訴える側面がある。どうも経済学ではなくて政治プロパガンダの一貫のようなので、気付いたところにつっ込んで生きたい。

2013年10月23日水曜日

その象牙は合法品?放射能で採集時期を特定するよ?

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象の密猟は後を絶たない。世界に42万3000頭しか象は残っていないのに、毎年2万5000頭が密猟されるそうだ。密猟者をその場で射殺するなど、取り締まりも過激な事になっている*1。1989年のワシントン条約締約国会議で象牙の貿易が禁止されたのだが、経済成長が著しい中国で需要が増加しており*2、密輸品の買い手があるのが原因だ。加工されてしまうと、正規品か密輸品かの違いが分からない事が、流通過程での取り締まりを困難にしているらしい。

米国の学校ではタブレット端末を持て余す

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以前のオバマとクリントン政権のスタッフが創ったCenter for American Progressと言う団体の調査では、米国の高校ではノートPCやタブレット端末を生徒に買い与えているのだが、その教育効果を確認する事はなく、さらには使うのを止めて従来型の教育に戻っているそうだ(POPSCI)。また、低所得者が通う学校では、数学ドリル程度の事にしか使われていなかったらしい。

改正労働契約法と賃金デフレに関する池田信夫の奇妙な言説

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経済評論家の池田信夫氏の『雇用改革なしに「デフレ脱却」はできない』と言うコラムが出ていたのだが、一度主張したら不退転の決意でそれを主張し続ける池田氏の性格が良く現われた内容になっている。

改正労働契約法について相変わらず事実誤認があり、デフレーションの賃金要因説に関しても錯乱があるようだ。主義主張のために事実認識や論理展開が捻じ曲がっているのは良くないと思うので、問題点を指摘してみたい。

2013年10月22日火曜日

世間に迎合する在特会 ─ 「死ね」「殺せ」はやめるってさ

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どちらかと言えば良い事だと思うのだが、在特会は世間を意識してデモ中の発言内容を修正しだしたようだ。 『司法による勧進橋児童公園不法占拠事件の偏向判決を許すな!デモ』で、10月10日の時点で、以下のような注意書きが付け加えられていた。10月22日のバージョンでは、禁止用語が婉曲的な表現に変わっているので、古いバージョンから引用してみたい。

2013年10月18日金曜日

非正規雇用の年限を5年から10年にできるか?

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改正労働契約法の第十八条で、通常は1年ごとに更新される契約社員などは、5年間で無期雇用にしないといけないと明記された。一部から評判が悪いこの改正、国家戦略特区ワーキンググループで10年まで更新できるように、再改正を目指すことが決まったそうだ(NHK)。

ただし正式に公表された文章は無く、報道機関ごとに捉え方が異なっている(雇用特区は断念、有期は10年へ?)。何はともあれ、もはや特区の話しではない。

囚人のジレンマを実際に囚人で試すとどうなるの?(カタカタカタ

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二人の被疑者が拘束されていて、それぞれ個別に隔離されて尋問されている。両方が黙秘すれば、二人とも微罪。一人だけが自白すれば、黙秘したもう片方は極刑だが、自白者は無罪。二人とも自白すれば、二人とも重罪。このとき二人とも黙秘を続けられず、二人とも自白してしまう。こういう現象を囚人のジレンマと言うのは、よく知られていると思う。

2013年10月15日火曜日

せめて具体例をあげて欲しいヘイトスピーチに関する社会学者の言説

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慶應大学法学部教授の塩原良和氏のヘイトスピーチに関する『ヘイトスピーチと「傷つきやすさ」の社会学』がよく理解できない。比較的長い作文なのに、用語定義と事実関係を曖昧にしたまま議論が展開されているからだ。主張の是非はともかくとして、心と心で通じあう社会学者以外にも読めるものにするために、少なくとも具体例を幾つかあげるような議論をして頂きたい。

2013年10月14日月曜日

高校で数学を勉強しなかった人のための「経済学で出る数学」

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何かと教育再生実行会議が話題だが、日本の文系学部が死に体になっている理由の一つに受験科目があると思う。数学が無いと何も出来ない時代なのだが、受験科目に数学が無いためか極端に数学に弱い学生が存在し、それにあわせて講義内容がおかしくなっているケースもあるようだ。

根本的な解決策として受験科目に数学を課したり、高校卒業試験を設けたりして、数学を勉強させたりすることが考えられるが、留学生などで母国で受けた数学教育が十分でないケースも存在する*1ので大学側で補習的な数学教育を準備する必要があるであろう。そういう時の教材に『(改訂版)経済学で出る数学 高校数学からきちんと攻める』は優れていると思う。

2013年10月12日土曜日

無知を晒しているある経済学批判について

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経済学が科学ではない、たった1つの根本的な理由』と言うエントリーが人気になっていた。典型的なパターンなのだが、経済学に対する無知によって構成されている。

問題のエントリーは、科学は(=事実解明的)な側面しかないのに、経済学は実証的な側面と規範的(≒道徳的)な側面があり、用語定義からして規範的な要素を抱えていると批判している。実証的な部分をとれば科学的とも言えるだろうし、用語定義の段階から規範的になっているわけではないから、不正確な主張になっている。

2013年10月8日火曜日

改正労働契約法に関して、濱口氏が松井氏に言いたかったこと

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理論経済学者の松井彰彦氏の朝日新聞に掲載されたエッセイに関して、労働法学者*1の濱口桂一郎氏が「経済学者の意識せざるウソ」と事実認識に間違いがあると指摘している。松井氏は著名な経済学者なのだが、実務よりの濱口氏から見ると事実認識に不満があるらしい。しかし、問題の指摘方法が丁寧とは言えずちょっと分かりづらい主張なので、出来る範囲で解説してみたい。

裁判所が在特会の“人種差別”を認定

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広く報道されているが、京都朝鮮学校公園占用抗議事件に関して在日特権を許さない市民の会(在特会)らのメンバー9名に対して損害賠償を命じる判決が下された。既に被告たちは威力業務妨害で刑事事件として有罪になっており損害賠償命令は意外ではないのだが、その判決理由が興味深いし、人種差別撤廃条約の解釈が独特になっている。

2013年10月6日日曜日

アジアを知る上で欠かせない「イギリス帝国の歴史」

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恐らく歴史家には英国史同好会のメンバーが多いのだと思うが、彼らの最近の研究をまとめた本が出ていた。「イギリス帝国の歴史」は16世紀から20世紀末までの英国史をアジアとの関係を貿易や投資の観点から整理して描いた本だ。18世紀までの大航海時代、19世紀中旬までの自由貿易帝国主義の時代、20世紀末までの大英帝国の解体の三時代に分けて、英国の対外拡張政策を紹介している。

2013年10月5日土曜日

聴衆は感動してと言うより、周囲に影響されて拍手する

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オペラなどの聴衆の拍手は感激を表すもののように捉えられる事が多いが、最近の研究によるとそんな事は無いようだ。スウェーデンとドイツの数学者と生物学者の研究チームの実験と分析によると、大半の人々は周囲がどの程度拍手しているかによって拍手を開始するか否かを決めており、長時間の拍手は好まないそうだ(POPSCI)。

2013年10月4日金曜日

ジャンク債とは格付ダブルBの債券で敵対的買収技法ではありません

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金融業の人はかなり違和感を持つと思うが、経済評論家の池田信夫氏がマイケル・ミルケンが敵対的買収の技術としてジャンク債を開発したと主張している(BLOGOS)。池田信夫氏曰く、敵対的買収のために債券を発行して資金調達を行うと、買収失敗時に債券価値が無くなるので、ジャンク債と呼ばれるようになったそうだ。全般的に債券や企業買収に対する理解が足りないと言うか・・・妄想が書き並べてある。

「外国人比率の高い事業所」だけ解雇容易化をしたい?

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労働問題が御専門の濱口氏が「民法第1条第3項を適用除外する特区!?」で、経済学者の八田達夫氏などから出された解雇特区について、「法の存立構造を根本からわかっていない」と疑問を呈している。しかし労働者の権利を擁護すべきなのは分かるのだが、それ以上に制度の狙いが良く分からなかったりする。

2013年10月2日水曜日

池田信夫はなぜまともな作文をするのがこれほど困難なのか

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経済評論家の池田信夫氏が『「軽税国家」日本で増税はなぜこれほど困難なのか』で、負担と受益のバランスが崩れているので、増税に関して国民的合意が取りづらいと主張している。趣旨が分からなくも無い部分もあるが、色々と事実誤認が多くて問題点が多いし、消費税率引き上げに賛成してきた今までの池田氏の論と整合性が無い。

地球温暖化対策として鉄散布は無駄でした

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地球温暖化への対策としてジオ・エンジニアリングと言う発想がある。例えば、光合成を行い二酸化炭素を吸収するプランクトンが死ぬと海底に堆積するのだが、硫酸鉄を配布して人工的にプランクトンを増やしてしまえば、二酸化炭素が大量に吸収されると言うものだ。これを実際に米国のビジネスマンが無断で実験を行い物議を醸したりしていた*1のだが、最近の研究によると無駄らしい。

2013年10月1日火曜日

文芸評論家のための民主主義に関する読書ガイド

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文芸評論家の東浩紀氏の民主制度に対するツイートが人気になっていた。はてなブックマークに「民主主義について考えたいなら、政治学の教科書でも読んだほうがいい。」と言うコメントがついていたが、本当に「政治学 補訂版」でも読んだ方が良さそうだ。文芸作品の読みすぎで、虚構と現実の見分けがつかなくなっている気がしなくも無い。