2013年10月31日木曜日

旅行者のジレンマでゲーム理論の現実味を考える

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現在の経済理論は大きくゲーム理論、特にナッシュ均衡に依存している。ナッシュ均衡は科学分野の基礎方程式と異なり帰納的に得られた法則ではなく、公理から演繹的に議論しているものなので、囚人のジレンマのようにありそうな状況を描写できる一方で、全く現実味のない状況を主張することがある。その代表例が、「旅行者のジレンマ」だ。1994年に現在の世銀総裁のBasu氏が考案したもので、2007年に日経サイエンスで紹介されたものだが、昨日、Twitterで地味な話題になっていた。

Investopediaを見ると、こういう話だ。二人の旅行者が、同一の骨董品を同一の価格でそれぞれ購入した。二人の旅行者は同一の飛行機に乗り込み、二つの骨董品を航空会社に預けるわけだが、運悪く二つの骨董品は大きく破損して価値がなくなってしまう。航空会社の担当者は骨董品を弁償する事に決めたが、骨董品の価格が分からなかった。そこで、二人の旅行者に次のような提案を行った。

  1. 旅行者二人は相談なしに2ドルから100ドルの骨董品の価格を1ドル単位で申告する。
  2. もし旅行者二人が同一の価格を申告した場合は、航空会社は申告額を二人にそれぞれ払う
  3. もし旅行者二人が異なる価格を申告した場合は、低い方の価格を本当だと見なし、高い方の価格をずるだと見なす。航空会社は二人に低い方の価格をボーナスもしくはペナルティー付で支払う。つまり、低い方の価格を申告した旅行者への支払額には2ドルを足し、高い方の価格を申告した旅行者への支払額からは2ドルを引く。

このときの旅行者二人の申告額がどうなるかが問題だ。ナッシュ均衡は、言わば相互に相手に出し抜かれようとされていると考える状態になるのだが、このケースでは2~100ドルのどの値を申告することになるのであろうか。まずは表を書いて整理してみよう。

次にxドルもしくはx-1ドルを申告する部分ゲームを考えてみよう。旅行者1がxドルを申告することを考える。もし旅行者2もxドルを申告してくれればxドルが得られるが、旅行者2がx-1ドルしか申告しなければx-3ドルしか得られない。しかし旅行者2はx-1ドルを申請すればx+1ドルが得られるため、x-1ドルを申請するであろう。すると旅行者1もx-1ドルを申告するほうが得になる。旅行者2も同様に考えるため、二人ともx-1ドルを申告する囚人のジレンマに陥る。

100ドルと99ドルを比較すると99ドル、99ドルと98ドルを比較すると98ドルが支配戦略になるわけで、1ドルづつずっと後ろ向きに推論していくと2ドルが、弱支配された戦略の繰り返し削除を行った後の均衡となる。非直感的な結論になるわけだ。これは合理的な状態と言えるであろうか。

また3ドル以上の差、例えば5ドルと2ドルを比較すると純粋戦略ナッシュ均衡は無くなる。混合戦略ナッシュ均衡で、100ドルか2ドルかの二択であれば約96%の確率で、100ドルか50ドルの二択であれば約92%の確率で、旅行者は二人とも100ドルを選択する。2ドル~100ドルまでの99択であれば100%の確率で2ドルが選択されるのに興味深い。

時間をもてあましている人は、ぜひ何ドルを航空会社に申告するのが適当かを考えてみて欲しい。こんな申し出をする航空会社なんか無いとは思わないように。なお、模範解答は私も知らないので自問自答に留めるようにお願いしますヽ(´ー`)ノ

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