2013年10月2日水曜日

池田信夫はなぜまともな作文をするのがこれほど困難なのか

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経済評論家の池田信夫氏が『「軽税国家」日本で増税はなぜこれほど困難なのか』で、負担と受益のバランスが崩れているので、増税に関して国民的合意が取りづらいと主張している。趣旨が分からなくも無い部分もあるが、色々と事実誤認が多くて問題点が多いし、消費税率引き上げに賛成してきた今までの池田氏の論と整合性が無い。

  1. 消費税の税率に関して、日本は軽減税率が無いので実効税率が思ったよりも高いことを忘れている。「EU(ヨーロッパ連合)諸国のほとんどは15~25%で、アメリカは州によって違うが10%以下。日本のように5%というのはカナダと台湾とナイジェリアだけで、これが10%になっても世界の下から20位ぐらいである。」と指摘しているが、2010年のGDP比で見てみると、日本は7%、米国は5.5%、イギリスが14.1%、ドイツは14.0%、フランスは14.5%となっている(租税負担率の内訳の国際比較)。つまり、10%に引き上げになると英独仏なみになる。
  2. 国民負担率の数字がおかしい。『たとえば連合の世論調査(2007年)では、「税金や社会保険料の負担が増した」という回答が85%にのぼる。しかし実際には、日本の国民負担率は28%で1990年代より下がっており、主要国で日本より負担率が低いのはアメリカと韓国ぐらいだ。所得税や社会保険を含めても、日本は世界でトップクラスの「軽税国家」なのである。』とあるが、国民負担率は38.5%で英独と米国の間ぐらいになっており(国民負担率の内訳の国際比較(日米英独仏瑞))、1990年代と比較すると高くなっている(国民負担率(対国民所得比)の推移)。
  3. 移転所得の増加であれば、利益を受ける人も多数いることを忘れている。『今回の消費税引き上げ分も「税と社会保障の一体改革」と称して、ほとんどが老人福祉に使われる。しかも歳出増が税収増を上回るため、基礎的財政収支は改善しない。若い勤労世代にとっては、今回の増税はほぼ丸損といってよい。』とあるが、有権者の過半数が50代以上になっている事を忘れている(日経ビジネスオンライン)。若い勤労世代にとっては受益が無いので反対が大きいと言う結論も、受益者である高齢者が多数派で彼らが賛成しない事を説明しない。
  4. 若者と老人の損得計算についても、論考が甘いかも知れない。社会保障を消費税と国債のどちらで賄うかと言う選択になれば、若者にとって消費税の方が得に、老人にとっては損になることを忘れている。もうすぐ死ぬ高齢者も、消費税であれば何かを買うときに税金を払うので、社会保障費を負担する。国債であれば全額将来世代の負担だし、インフレ税を考えてもインフレになる前に高齢者は死にそうだ。
  5. 所得税や相続税、そして社会保険料の変化については、消費税ほど騒がれないと言う不思議な国民性を無視している。1997年の消費税率引き上げの前後で所得税と相続税が引き下げになっているが、すっかり忘れている人は多い(過去の主要な減税政策(国税、個人所得税・法人税))。逆に2007年度から定率減税が廃止され、2012年度から復興特別税が課せられ、社会保険料も年々と増えているのだが、こちらも消費税ほど話題になっているわけではない。

池田信夫氏は「若い勤労世代にとっては、今回の増税はほぼ丸損といってよい」と主張しているわけだが、だったら増税反対にも理があることになる。しかし、世代間格差を問題視し、消費税率引き上げに賛成してきた今までの池田信夫氏の主張と整合性が無い。以前に「年金生活者が激増する高齢化社会では、彼らにも負担を求める消費税は世代間の不公平是正のために必要」と主張していたことは、認知症で忘れてしまったのであろうか。

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