2013年9月1日日曜日

消費税率引き上げに関する小黒氏と江口氏の見解について

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未だに消費税率引き上げの是非が議論されている昨今だが、二人の財政学者の意見がネットに掲載されていた。法政大学の小黒一正氏の「消費増税を予定通り実施すべき3つの理由」と、駒澤大学の江口允崇氏の「いつ、どのように財政再建を行うか――消費税増税を考える」だ。常識の確認と言う意味で、二人の議論を展望してみよう。

1. 財政悪化は減税と社会保障費の増大が理由

小黒氏は税収減の要因は減税が理由だと主張している。確かに平成24年度年次経済財政報告第3-2-10表を見ると減税がいかに行われたかが分かる。実際に1991年度と2009年度を税収を比較すると、名目GDPは473.6兆円と474.0兆円でほとんど差が無いのに、国と地方をあわせた一般政府税収は101.0兆円と76.6兆円で大きな差がついている(経済成長と財政健全化に関する研究報告書)。しかし、高齢化による社会保障費の増大についても言及していないのが気になった。江口氏は軽く言及しているし、小黒氏も言わずもがなと認識していると思うが、読者はそうでもないときがある。寺澤(2011)の図を確認しておこう。

追記(2013/09/01 01:33):誤解を招く書き方であったようだ。小黒氏は景気悪化で税収減したのではなく、減税で税収減したと指摘しているだけで、財政悪化の原因自体は議論していない。「税収減の主な要因と、歳出増の主な要因(例:社会保障費の膨張)は別です」とのこと。

2. このままでは起きる『財政破綻』はインフレをもたらす

小黒氏はシミュレーション結果から財政破綻が近いことを指摘し、江口氏も経験的に経済成長率>金利という状態が維持される可能性が低いため、現状では財政収支を改善しないと破綻する事を指摘している。ややアプローチが異なるものの、両者の主張は共通だと見なせるであろう。小黒氏は『財政破綻』が意味する部分の議論はしていないが、江口氏は国債保有者の負担か財政ファイナンス(日銀引受)による高いインフレーションの発生の事だと指摘している。

実物ベースでは、どのみち誰かが財政赤字を補填する事になるわけだ。財政学の範囲を超える部分があると思うが、インフレ課税が国民に望ましい形で負担をかけるとは限らないこと、取引コストを増加させる可能性が高い事は指摘しても良かったように思える(関連記事:意外に知られていないインフレーションの弊害)。

3. 破綻しなくても世代間の不公平が問題に

江口氏は破綻しなくても世代間の不公平が問題になることを指摘している。現役世代に国債を売って、老人世代に医療サービスなどを行っているのが現状だ。現時点で増税を行えば、現役世代と老人世代の両方に負担を課すことができるが、将来時点で増税を行えば、今の老人世代は死んでいるので何も負担しないことになる。これは公平性と言う観点で問題がある。

4. 長期的には増税で成長率は低下しない

小黒氏は、経験的に増税で成長率は低下しないと指摘している。1997年の消費税引き上げ後に発生したように思える不況も、実はアジア通貨危機が原因だと言う事だそうだ。確かに減税も行われてきているので、増税が不況の原因になったとは言い難い。また、銀行の貸出政策が変化したのは1999年以降であり、消費税の反動不況よりも1年のラグがある(清水(2006))。

理論的には税制が資本蓄積に影響を与えることはあるものの、財政赤字が技術進歩を促進するとは考えづらいので、長期的には増税で成長率は低下しないと言うのは説得力がある。

5. 消費税以外の選択肢はないのか?

江口氏が高齢者に対する課税方法が他に無い事から、消費税が選択されたと分析している。ただし、高齢世帯に課税するのであれば、公的年金控除の縮小や廃止、利子所得課税やキャピタルゲイン課税についても言及しても良いように思える。スティグリッツが主張するように、環境税でも良かったかも知れない。なお、小黒氏は消費税率10%では足りないと指摘しているし、自民党・公明党・民主党の三党合意でも所得税や相続税に言及があるので、消費税以外の選択肢も取られるはずだ。

追記(2013/09/01 01:33):小黒氏から、他に給付削減や支給開始年齢の引き上げ、年金課税の強化や(医療費などの)自己負担増も対策としてあり、増税の本当の負担は「超過負担」(=一括税が利用できない歪み)になると言う補足的な突っ込みが。

6. ゼロ金利下での増税は有り?無し?

(デフレではなく)ゼロ金利下での増税は、小黒氏と江口氏で見解の違いがあるようだ。江口氏は、近年のマクロ経済学の知見を踏まえて増税タイミングをもっと柔軟に考えても良いのではないかと提案しており、小黒氏は「15年にも及ぶ政治的な混乱を経て、ようやく、2012年8月に今回の増税法案が成立した」経緯を踏まえて、政治的に来年度からの増税を断行すべきだと主張している。

個人的にはどちらが正しいとも言い難いが、この辺が一般的な議論であろう。ノーベル賞経済学者のクルッグマンは江口路線を推奨しているが、高インフレ率に苦しむ開発途上国などでなかなか財政再建ができない事も多く、実務家としては小黒路線と言う事になるのだと思われる。

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