2013年8月8日木曜日

ゲーム理論による制度分析と人生について

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MIT Technology Reviewが、最近のゲーム理論の応用的発展を紹介している。題名が「もはやゲーム理論は経済学者だけのものではない」から「制度をゲームする」に変わっている*1ぐらいなので、論点が絞り込まれているわけではないが、こんな事になっているんだと知るのには良い紹介にはなっている。

詳細は記事を参照して頂きたいのだが、かなり大雑把に紹介すると、経済学で長く培われてきたゲーム理論は二つの方向で、インターネットのネットワーク利用を最適化するプロトコルなどを含めた制度分析に応用されるようになってきているようだ。

一つは、メカニズム・デザイン的な最適な制度設計を議論するために均衡を計算する方向である。コンピューター・サイエンスを導入する事により従来は計算できなかった難解な条件のゲームの近似的な均衡が出せるようになってきている。典型的には複数財のオークションが研究されており、プレイヤーが持つ情報の公開度合いが重要になってくるようだ。暗号理論にあるゼロ知識証明に近いような仕組みで、限定的な情報公開が可能であるほうが望ましいと言った分析結果が得られているらしい。

一つは、既存の社会システムで、どのような均衡が実現されているか分析する方向である。個々の人々が、最近になってコンピューターで解けるようになった複雑なゲームが解いているわけでもないが、かと言って無闇に動いているわけでもない。実際にどのような戦略と均衡が実現されているかを分析することで、交通や電力政策を考える事ができる。何と電気代がリアルタイムに変わるスマートメーターを導入すると、モデルにもよると思うが、電力網全体がダウンするような結論が出てくるらしい。

計算しきれないのでコンピューターで近似解を求める方向は完全合理的な世界で、計算しきれていないだろうからシンプルな戦略と均衡を分析する方向は限定合理的な世界で、走っている方向は真逆な気もしなくも無いが、どちらにしろ拡張して発展していっているらしい。ポアンカレ曰くニュートン物理学の三体問題も計算しきれないわけだし、ゲーム理論のナッシュ均衡もこういう事になったのは必然なのであろう。

ナッシュ均衡を学んでおけば、世の中で起きている事をクリアに理解して、問題解決の糸口をつかめるようになると主張していた大学教員がいた*2のだが、こうして見ると一筋縄では歯が立ちそうにない。囚人のジレンマであれば何か分かった気になれるが、色々と考え出すと複雑怪奇な世の中で己の非力さを嘆くことになりそうだ。それが豊かな人生という事なのかも知れないが。

*1"Game Theory Is No Longer Just for Economists"から"Gaming the System"に変わった。

*2ナッシュ均衡を知ることで、あなたの人生は豊かになる

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