2013年2月25日月曜日

日銀理論が何かは知らないけれども、日銀理論が嫌いな人に薦めたいテキスト

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ちょっとした切っ掛けで手にとった学部レベルのマクロ金融理論のテキストであるModeling Monetary Economiesをざっと眺めてみた。日銀理論が何かは知らないけれども、日銀理論が嫌いな人に薦めたいテキストになっている。基礎的な、そして良く話題にあがるマクロ金融のトピックが自然な形で網羅されているからだ。このテキストの内容が現在の日本の状況に当てはまるとも思えないが、なぜ急進的なインフレ誘導政策が警戒される理由は理解できるようになると思う。

三部構成で、一部でマクロ金融、二部で銀行・決済・流動性などを、三部で政府債務について説明がされている。一部で理論的に貨幣機能を定義した後、インフレや、為替レート、そしてフィリップス曲線とルーカス・モデルを説明する。二部は雑多な面があるが、経済に弱い人は金融システムの安定確保を無視し、中央銀行の業務を経済成長の促進だと勘違いしがちなので、抑えておきたい内容だ。三部は一部の政府債務関連の話を発展させている。

5章のPrice surprisesは経済学的なアプローチがどのようなものかを覚えるのには良いと思う。つまり、インフレ率と失業率のトレードオフの関係を表すフィリップス曲線が知られている一方で、複数国のデータを同時に分析するとそのトレードオフが観察されず、さらに政府がインフレ率を上げて失業率を下げようとしたら失敗した経験を、ルーカス・モデルが綺麗に説明できることを示している。

英語も数式も平易に書かれている。簡素なOLGモデルで説明されていくので、微分さえもほとんど見かけない。RBCNK-DSGEの知識も要らない。ただし、説明されているモデルでは、物価水準(インフレ率)の決定がP=M/Y; P:価格, M:通貨供給量, Y:生産量となっており、流動性の罠などは無い事になっているから、今の日本の状況を説明するわけではない。また、為替レートにしろ、ハイパー・インフレーションにしろ、議論が足りない部分は多い。

学部レベルの教科書だから当然と言えば当然だが、適時、他の文献を参照しながら読んだ方がいいであろう。「日本銀行の機能と業務」「金融政策のフロンティア: 国際的潮流と非伝統的政策」あたりと平行して読むと、マクロ金融政策における常識を身に付けることができる。

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