2025年1月21日火曜日

トランプ政権混迷の4年間がはじまる

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2回目のトランプ政権がはじまった。新政権といっても2期目なので、大統領の性格と手腕についてはよく知られており、1期目は歴代大統領の中でもっとも低い平均支持率と、がっかりされた大統領であった。どうして返り咲いてしまったのか。就任式の演説からして、前回から自由奔放感が増しているトランプ大統領だが、これからどういう混乱が危惧されるか整理していきたい。

1. レームダック化

現在は両院で共和党が過半数になっており、常識的にはトランプ大統領は順風満帆に思われるかも知れないが、トランプ大統領のキャラクターとトランプ支持者の実務能力からレームダック化する恐れが高い。宣言で済む議事妨害フィリバスターがあるからだ。

1975年からのアメリカの上院は、上院の5分の2以上が強く反対していると、フィリバスターが宣言されて法案が通らなくなる。長々とした演説すら要らないので、容易に出される。トランプ政権が制度改革案を出して成立させるためには、民主党(の一部)を説得しないといけない。政治的妥協を探る必要があるのだが、それには政治的手腕がいる。

最初のトランプ政権末期は、政治任用されるポストが埋まらない状態になっていたし*1、既にアジア情勢に疎いことや、性的暴行疑惑などで非難されている国防長官候補のピート・ヘグセス氏や、反ワクチンの厚生長官候補のロバート・ケネディ・ジュニア氏が議論になっている。

行政の中にいたことのあるマルコ・ルビオ次期国務長官やマイク・ウォルツ次期米安保補佐官は手腕がありそうだが、彼らは外交を担当する。また、そもそもトランプ氏は政府が機能しないことを憂慮しないようだ。

2. インフレーションの再燃

バイデン政権の支持率が低迷したのは、2年目のインフレーションが主因とされる。ここ2年間のインフレ率は落ち着いていたが、バイデン政権の評価は回復しなかった。バイデン政権と同じ轍を踏まないようにするかと思いきや、トランプ政権は非ケインズ的インフレ指向政策を打ち出している。

アメリカの全就労人口の5%ぐらいが不法移民とされているが、不法移民を追い出すと息巻いている。労働力の不足は、インフレの誘発になる。また、関税を強化すると主張しているが、これも輸入物価の上昇をもたらす。不法移民は農業や製造業などに多く従事しており、関税強化による輸入代替と不法移民の国外退去は組み合わせがよくない。

もちろん、本当にインフレになるかは分からない。アメリカの景気との兼ね合いもあるし、トランプ政権の行政能力で不法移民を本当に追い出せるのかは疑念がある。1期目のときの国外退去数は、バイデン政権による国外退去数とだいたい同数であった。また、共和党員の選挙区の方が不法移民に対する依存が高そうで、水面下で排外主義政策に反対していても不思議は無い。他に、すべての政策がインフレ誘発的とも言えない。化石燃料を重視し、電気自動車や再生可能エネルギーを軽視した政策は、インフレ抑制的である。

3. 国際関係の不安定化

トランプ氏は国際協調や国際秩序の維持、自由な貿易や投資に意義を感じていない*2。前回のトランプ政権で自由貿易協定の再交渉騒動があり、イランとの核開発に関する米欧イランの合意を(イランが合意に違反していることを示さず)一方的に打ち切って対イラン制裁を課して、イランの核開発の進展と対露接近を招くことになった。こういう協議は米国もイランも国内の強硬派の反対を押し切って何とか合意しているので、闇雲に破るとそれぞれの国の強硬派の勢いがついて、容易には元に戻らない。

関税引き上げを宣言しているし、自由貿易の後退は何らかの形で起きる。パリ協定からの再離脱もする。イスラエル、ロシア、そして中国の対外拡張政策を支持してしまう可能性も高い。

バイデン政権は水面下でイスラエルの軍事行動を抑制しようとしていたが、1期目のトランプ政権は大使館をエルサレムに移すなど、露骨な親イスラエル政策をとっていたので、ヨルダン川西岸地区やガザ地区に対する入植を公に容認するなど、フリーハンドを与える蓋然性が高い。

ロシアのウクライナ侵攻も、現状の占領状態での休戦とそれに基づく国境線の策定を認めることで、プーチン大統領がウクライナ侵攻で一定の戦果を得ることを認めることが危惧されている。

対中強硬政策を打ち出してはいるが、台湾侵攻に対して関税の引き上げで対抗すると言っているので、習近平氏に関税の引き上げで済むのかと思わせてしまっている可能性がある*3

4. 本当にヤバイのか?

口先だけで本気ではないと言う説もある。ボルトン元補佐官の証言がそうだし、2020年7月31日に、トランプ大統領(当時)はTikTokを利用を翌日にも禁止する宣言したのだが、2025年1月、トランプ次期大統領はTikTokの米国内サービス停止の延期を主張していた。しかし、理念に乏しい上に、刑事訴訟で有罪判決を受けるぐらいは道徳的とはいえない発想をしてきた人だ。やるとまずいことが何か分かっていないかも知れない。何かの拍子に何かをやってしまうリスクがある。イランとの核合意離脱はその例ではないであろうか。そして、何かが起きたときに何もしないか、何もできない可能性はかなり高い。

ロシアと中国の脅威に直面しているアメリカの同盟国は難しい状況に立たされている。もっと自律的に頑張る方向に舵を切るか、トランプ後の正常化を期待して四年間忍耐を続けるか。

*1人員不足、未熟な職員に「飲酒騒ぎ」 ホワイトハウス部局 米紙 - CNN.co.jp

*2バイデン政権にも危ういところはあったが、トランプ氏はこれらを隠して取り繕うとするところも無さそうだ。

*3今から侵攻準備をはじめても、トランプ政権が終わるまでに作戦開始も困難なので、真に受けているとは思えない。

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