女性にAEDを使ったら、現場にいなかった親が強制わいせつ罪で被害届を出して、和解で決着する羽目になったという証言をABEMA NEWSが報じて、AEDの法的リスクを以前から主張してきたアンフェの皆さんが危険を煽るコメントをつけて拡散している。しかしこの証言、色々とおかしい所があって、信じるに値しない。医療関係者や法曹が次々に指摘している*1。
1. Abema Newsで紹介された証言の怪しい点
証言では胸骨圧迫をしながらAEDと毛布を探してAEDを利用したと主張しているが、胸骨圧迫をしながらAEDと毛布を探すのは一人では不可能だ。しかし複数人がいた話ではない。毛布をかけてAEDのパッドをつけたことになっているが、目視できないのに正しく位置に装着できるのであろうか。また、救急車を呼んで同情したことになっているが、家族以外が同乗することは無いと言われる。さらに現場にいなかった女性の親が強制わいせつ罪で被害届を出すことが可能なのか訝しい。目撃者でもない。路上での施術だが、AEDをどこから持ってきたのかと言う話もない。また、証言者の過去発言からも信憑性も疑われている。
2. 善意のAED利用者を有罪に追い込むには
こんな話を妄信してしまった人々は、AEDを利用した善意の人を強制わいせつか何かで有罪に追い込む方法を考えよう。意識が無いのにかこつけて、下半身をまさぐっていたとか、乳房を揉んでいたとか、そういう痴漢行為が無い場合に有罪に持っていけるか。有罪になりそうにない行為の取り締まりを、一般に警察は嫌がる。有罪に持ち込む術が無ければ、逮捕されることもまずない。
呼吸が無い状態の女性なので、女性の証言はあてにできない。話題になった手術後わいせつ事件では、付着物のDNA型鑑定の結果もあったが、最終的に無罪になっている。上半身を露出させ*2、さらに乳房に手が触れたことが確認されても、有罪に追い込むのは困難だ。さらに、唾や繊維が付着してもおかしくないので、DNA鑑定や繊維鑑定で何かを立証することもできない。痴漢とは状況が異なる。
日本医師会『救急蘇生法の指針』の2015年版には「傷病者の胸から衣服を取り除き、胸をはだけます」とだけあるし、新しい版でも「女性の胸を露出させることはためらいがちですが、電極パッドを正しく貼り付けることを優先」とあるし、ワイヤー入りブラジャーは外せと言う話も、心電図解析に影響を与える危惧があるので外せと言う話も見かける。判断に迷った場合は外したり切ってもよいとされるので、上半身を裸にしすることが不法な運用であると立証するのは難しい。施術した人がブラジャーを外さなくても問題ないと確信していることを、どう立証すればよいのか。また、そのとき乳房に手が触れたとしても、同様に猥褻行為を行う意図の立証は困難である。
発見と施術から救急車を呼ぶまでの時間が異様に長いとか、上半身を裸にしてAEDを利用するまでの動画を撮影してインターネットに公開するなどの、常識を逸脱する行為を同時に行っていたら救急救命行為の逸脱と見なされるかも知れないが、救急救命の範囲と見なせる行為で有罪を勝ち取るのは難しい。悪意のある人の証言があればどうであろうか。裁判で証言してくれて、かつ裁判官が証言を信じるにたると看做す必要がある。さらに、AEDが利用できるのはAEDを設置してある商業施設の構内か、それらに近い繁華街の道路ぐらいなので、他の目撃者も出てくる可能性があり、複数の供述が矛盾している場合は、裁判官が信じてくれる可能性は減る。
3. それでもリスクを感じる人は
AEDは年に1000件ほどの利用があるが、女性にAEDを使って猥褻行為で有罪になった人物はいないし、起訴された事例の報道すら皆無だ。経験的にも、女性に対するAEDの使用リスクは極めて低い。なお、心配であれば、「大丈夫ですか?意識ありますか?」と声をかけながらケータイで撮影して女性に意識が無い証拠をとっておけば、女性がせん妄で錯乱した場合のその証言の信憑性を落とせるし、AEDを利用すべきと考えた強い根拠になる。
*1男性「女にAEDを使ったら被害届を出された!」医師「99%デマ」弁護士「直感的にデマ」 - Togetter [トゥギャッター]
*2AEDのパッドを貼り付けるのに邪魔にならないのであれば外す必要は無い。
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