2024年11月8日金曜日

米大統領選挙でカマラ・ハリスが負けた理由を語る前に知っておくべきバイデン政権のこと

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2024年米大統領選挙でカマラ・ハリス副大統領が負けた理由の分析があちこちで論じられているが、ハリス候補が実質的に引き継ぐことになるはずだったバイデン政権について、誤解があるもの、誤解を招こうとしているものが多いので、最低限、認識しておくべきこと指摘したい。

バイデン政権は労働者よりだった
民主党が低学歴の労働者階層に背を向けて、高学歴のウォーキズムに迎合したような批判があるが、バイデン政権は過去のどの大統領よりも労働者のために働いていた。全米自動車労働組合(UAW)のストに参加した*1ことが知られているが、増税案でも富裕層に狙いを定めていた。また、インフラ投資雇用法により建設雇用の増加をもたらし、CHIPSおよび科学法に基づく米国のサプライチェーンに関する大統領令で半導体工場の誘致を行っている。低所得者向けの給付も進めていた*2
コロナ禍からの景気回復を達成
トランプ政権最後の年2020年に失業率は8.09%であったが、バイデン政権最後の年の2024年の失業率は4.1%である。インフレーションの抑圧に成功している一方で、大きな景気後退は招いていない。なお、インフレーションと同様にコロナ禍からの自然回復によるもので、バイデン政権が特別な経済政策を実施したためとは言えない。
インフレーションの抑圧に成功
アメリカのインフレ率を確認すると、2022年6月がピークで9.1%に達しているものの、ここ1年間は3%台と、過去のアメリカの水準で考えれば平均的なインフレ率となっている。
インフレーションの原因は、バイデン政権によるものとは言えない。バイデン政権は2021年1月からだが、2021年の中頃からインフレーションが進んでおり、2022年のロシアのウクライナ全面侵攻後に加速した。
財政収支の悪化がインフレを加速したような言説もあるが、トランプ政権の最後の2020年の方が、2021年よりも財政赤字が大きい。インフレーションは、コロナ禍からの景気回復の反動と考えるのが自然だ。
不法移民流入増はバイデン政権の政策によるものとは言えない
アメリカ合衆国税関・国境警備局(CBP)の拘束者数の推移から、不法移民の流入が増加したと言われるが、バイデン政権の政策によるものとは言えない。
コロナ禍の後に労働需要が増したが、労働供給量が増えなかったためにインフレーションが生じたわけだが、これは不法移民への労働需要の増加も意味する。アメリカの一次、二次産業の何割かは不法移民によって支えられている状態だ*3。コロナ禍で仕事がなくなった不法移民が国に帰り、景気回復で戻ってきているだけの可能性もある。
バイデン政権は既に長期間定着してしまって米国人と結婚しているような不法移民に救済策を出している*4が、新たな流入は阻止すべく、難民申請に関する条件の厳格化や再入国禁止などの罰則措置の導入をしているし、トランプ政権自体の亡命申請者のメキシコ待機政策を復活させ、メキシコ国境の壁建設の容認にも転じている。また、南部国境でトランプ政権のときの5倍の越境者を拘束し*5、トランプ政権とほぼ同数の149万人を強制送還した*6

バイデン政権がそこそこ上手くやっていたからと言ってカマラ・ハリス副大統領が次の大統領に相応しいとは限らないのだが、米国市民の皆さんが民主党政権にNoを突きつけたからと言ってバイデン政権がダメだったと言うことにはならない。どうもアメリカの右派メディアの請け売りのようなことを吹聴している動画配信者が多いらしいのだが、少なくとも以上の点は認識して議論して頂きたい。

*1バイデン氏、自動車労組のスト現場で支持表明 現職大統領では異例:朝日新聞デジタル

*2実現した政策は多くは無いが、児童税額控除の拡大・普遍化は評価されている(バイデン政権の社会保障公約の達成状況と今後の展望 (2023年12月14日 No.3617) | 週刊 経団連タイムス)。

*3明日山 (2007) 「移民と米国経済・社会」によると「2005年3月時点で…全就労人口1億4,800万人の 4.9%にあたる 720 万人が不法移民…不法移民の割合が相対的に高い職業としては、農業(全就労人口の24%が不法移民)、清掃業(17%)、建設業(14%)、調理・飲食サービス(12%)、生産労働(9%)などが挙げられる」そうだ。

*5南部国境で拘束された越境者数を不法移民の数としている文献があるのだが、国境で拘束された人々は入国できずに追い返されているようだ。

*6トランプ氏の1期目、実際には強制送還が減っていた理由 - CNN.co.jp

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