2024年11月29日金曜日

メディアの皆さん、中高生の自由研究を世に広める前には

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それを専門とする研究者のコメントをもらってください。

動画の高速再生がどの程度視聴者の理解を困難にするかについての高校生の研究を、インタビュー型式で紹介したウェブの記事*1が話題になったのだが、藤田医科大学の宮川剛氏が提示されたデータからそのような事は言えないのではないかと𝕏/Twitterで批判しだし*2、学校に詳細を問い合わせるなどを行った。そして、この宮川氏の行為に賛否が議論になっている。

研究ではなく学習目的の中高生の自由研究の粗を、研究者があれこれと批判する意義は大抵は乏しく、報じられてから専門研究者が批判を繰り広げると、高校生への人格批判を誘発しかねない。一方、大手ではないメディアとは言え、世に広められた不適切な面のある研究に批判を加えてはならないと言うのも問題だ。学術雑誌にはこの高校生の研究よりも問題含みの研究が掲載されているし、一流研究機関でもっと胡散臭い研究を広報しているところがあるにしてもだ。メディアが記事として世に広めた後に看過できない問題があると、対応が難しくなる。

メディアの皆さん、中高生の自由研究を世に広める前に、それを専門とする研究者のコメントをもらってください。大事なことなので二度書きました。研究者でもパワハラ気味な人々がいるので人選は難しいが、そこそこ良い大学のアカデミア育ちのシニア研究者は、それとなく研究の問題と改善点を示唆するのが得意なことが多い。話題の高校生の研究であれば、先行研究の紹介による研究の位置づけを加えつつ、その意義と成果を称え、より高度な統計解析を用いると結論が変わってくる可能性を示唆してくれるはず。

*1動画の「倍速視聴」理解度は、1・75倍まで変わらず 高校生が実験して分析|高校生新聞オンライン|高校生活と進路選択を応援するお役立ちメディア

*2提示された情報が乏しいので、統計解釈について何がおかしいのかははっきりはしない。再生速度で5群に分けたランダム化比較実験のデータを、統計的仮説検定にかけて(等倍速と比較して)有意に低くなった群を、理解度が落ちたと解釈したのであれば、徐々に理解度が落ちている場合でも差がはっきりした場合だけ有意になることはあるので誤りになる。しかし、速度に応じて徐々に理解度が落ちるモデルと、ある速度から理解度が急に落ちるモデルを用意して、モデル選択を行った上での結論であれば概ね妥当な分析と言える。なお、統計解析ソフトのRにMCMCPackと言うパッケージがあって、そこにMCMCregressChangeのように構造変化点を調べるための関数があるので、プログラミング的に困難な作業でもない。

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