職業差別が不徳とされる日本社会なので、ポルノ女優や性的サービス従業者などのセックスワーカーの人格を蔑視してはいけないことに異論を唱えられる人は少ないはずだ。ここから、セックスワーカーにも職業人としての誇りがある、セックスワークは女性の尊厳を損なわないと言うような主張がされているのだが、論理の飛躍があるので指摘したい。
1. セックスワークは公衆道徳上有害な業務
お金が必要な無職女性にコンビニエンスストアのパートタイマーを勧めることは有害とは言えないが、お金が必要な無職女性にセックスワーカーになることを勧めるとハラスメントだと非難や刑罰を受けることになる。生活保護申請者にセックスワーカーになることを求めたと報じられた大阪市職員は、世間の強い非難を浴びた*1。日本ではセックスワークは公衆道徳上有害な業務と裁判所が認定しており、これらの業務の紹介や斡旋は違法行為になる。2016年にグラビアアイドルをAV撮影に派遣していた会社が書類送検されており、有名無実な規程と言う事ではない。
2. 自覚が無くとも広く支持されている考え方
常識や法律が常に正しいとは限らない。世間や裁判所の考え方がおかしいのかも知れない。そのように主張する人がいたっておかしくは無い。「自らの意思で誇りを持って仕事をしているので、自分の尊厳が毀損されているとは思わない。」と主張しているセックスワーカーの女性に、「いやいや、あなたは卑しい職業に就いているのですよ。」と言えば、蔑視に基づく侮辱だと非難されるであろう。しかし、セックスワークは女性の尊厳を損なわないと主張している人も、誰かにセックスワーカーになる事を勧めることは躊躇するものだ。実際にセックスワークが女性の尊厳を損なわないのであれば、貧困女性に積極的にセックスワークを紹介すべきではないか? — と、ある表現の自由戦士のネット論客に質問してみたが、回答は避けられた。
3. 他者はセックスワーカーの内心を代弁できない
セックスワーカーの存在が、性犯罪を抑制していると見做される*2現在では、むしろ外部経済がある有徳な存在とすら言える。サービス利用者は、セックスワーカーをモノとして粗雑に扱わないように、日頃から感謝の心を忘れないべきだ。しかし、業務内容や職歴よりも短期で得られる金銭を重視してセックスワーカーになる人が大半で、性暴力や性感染症のリスク、社会的スティグマなどから、薄給でもセックスワーカーを続けたい人々はごく少数。脅迫や甘言などでセックスワークに従事させる人々が問題になることも多い*3。安易に従事して、強く後悔することもある*4。セックスワーカーにも人格としての尊厳があるので、蔑視したり差別したりしてはいけない一方で、セックスワークは大抵の人格の尊厳を傷つける仕事で、セックスワーカーが自らの職に誇りをもっていると他者が見做すのは困難である。
4. 安易な美化は、規制の方向をミスリーディングする
他に待遇のよい仕事がある人ばかりではないので、セックスワークの禁止や阻害*5はセックスワーカーに悪い結果をもたらす事が多い*6。セックスワークに外部不経済があるとも言い難い。しかし、セックスワーカーの尊厳とセックスワークの善し悪しを混同すると、セックスワークに纏わる諸所の問題を見過ごすことになりかねない*7。
*1「ソープへ行け」生活保護申請に大阪市職員が求める 女性への「信じられない暴言」は本当なのか: J-CAST ニュース
*2Ciacci and Sviatschi (2021) "The Effect of Adult Entertainment Establishments on Sex Crime: Evidence from New York City,"The Economic Journal, Vol.132
*3関連記事:『最貧困女子』で学ぶ不細工で知的障害を抱えるデブで粗暴な家出少女たちのセックスワーク
*4関連記事:多くの経験者から見て、AV女優と言う仕事はそう良いものではないよ
*5かつてのタイのエイズ予防キャンペーンのように、セックスワーカーの利益につながる規制もあるので、阻害と書いた。
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