ベトナムで中国による南シナ海の石油掘削に抗議する反中デモが暴徒化し、全土に広がっている(日経)。間違って日本や台湾の工場も襲われているらしい(NHK)。しかし、一方的な領海の宣言と資源採掘の強行に不満を持つのは分かるが、外国直接投資(FDI)に影響が及ぶ行為は自制したほうがベトナムのためのように思える。経済力が劣っている状況を挽回しないと、装備が重要な海戦では勝つ可能性がほとんど無いからだ。
1. 直接投資の中国集中は解消されつつある
中国経済は大きな曲がり角に来ている。日系企業の方針転換が目立つ*1のだが、人件費高騰などを理由に直接投資先を中国以外にする動きが目立ってきた*2。ここに来て韓国最大の企業であるサムソンも、ベトナムに新設工場を建設している*3。面白い事に中国企業も縫製業などを中心にベトナムへの投資を拡大しているし、アフリカでテレビの生産を行っている*4。世界の工場としての中国はやや陰りを見せており、「欧州連合(EU)域内の2013年1~11月の輸入品に占める中国製品の割合は16.5%と、10年の18.5%から大きく落ち込んだ」そうだ。
2. 直接投資は手っ取り早く成長する手段
人件費高騰で直接投資が減ったからと言って、中国経済が崩壊したりするわけではない*5。直接投資がリードする経済から、内需主導の経済に変化するだけだ。しかし、外国直接投資に依存することで手っ取り早く経済成長して来たわけだから、経済成長率は確実に落ちる。逆に中国以外の新興工業国は外国直接投資を呼び込むことができれば、中国と同様に手っ取り早く経済成長する事ができる。ベトナムもそういう立場の国の一つだ。
3. 軍事衝突は避けられず、経済力が問題になる
中国は資源確保を第一に考えている節があり、そこに資源がある限り海洋進出の歩みを止める事はないであろう。日本が主張する排他的経済水域(EEZ)の境界周辺でも天然ガス採掘を強行しており(東シナ海ガス田問題)、1971年の突如の尖閣諸島の領有権主張も尖閣諸島周辺に豊富な石油埋蔵量が期待された*6頃に始まっている。ベトナムに権益を守る意思があるのであれば軍事衝突は避けられそうに無い。
ベトナムにとっての問題は、装備などで劣る事だ。1974年の西沙諸島の戦い、1988年のスプラトリー諸島海戦で、既に中国の海軍力がベトナム海軍を圧倒していたが、現在ではその差はずっと開いているはずだ。今のところベトナム海軍が自制的なのも、明らかに軍事力に劣るからなのであろう。何とか食い止めたいと思っているであろうが、軍事技術を欧米などから買うにしても、経済力をつけないと海戦はできない。
4. ベトナムには我慢して直接投資を呼び込む努力が必要
ベトナムに限らずフィリピンにも言えることだが、中国の海洋進出を食い止めたいのであれば、外国直接投資を呼び込んで豊かになる事が優先事項になる。幸いにして、中国経済の変化から、そのチャンスは大いにある。しかし、暴徒と化したデモ隊が工場などを破壊して回っていたら、ベトナム進出をためらう経営者が多いであろう。本当に中国の海洋進出を食い止めたいのであれば、国内の混乱は抑制的にする必要があるし、規制緩和やインフラ投資などを行って投資環境を改善する必要がある。汚職防止や徴税能力の改善も必要であろう。今は我慢したほうが、将来の戦争に勝つ可能性は高い。
*1「【経済裏読み】日本企業の“脱中国” 人件費高騰、反日でもうこだわらない…堅調ASEANにシフト」
*2「日本の対中投資が半減 1~4月期、コスト高や関係悪化で - SankeiBiz(サンケイビズ)」
*3"Samsung may move phone manufacturing to Vietnam: analyst"
*4"China Inc. Moves Factory Floor to Africa - WSJ.com"
*5経済成長率を維持するために過剰に資本投資に依存している側面があり、過剰投資の維持が限界に達して自壊する可能性はある。名目GDPに占める総固定資本形成の比率(投資率)を見ると、中国の投資率の高さが際立っている(内閣府 - 第2-2-3図)。
*6当初は1000億バーレルの石油埋蔵量と言われていたが、現在では32.6億バーレルか、それ以下だと思われている(尖閣諸島周辺海域の石油埋蔵量について)。
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