世界最大のOEMメーカーである台湾・鴻海精密工業の中国の工場(iPhoneの製造をしている)で、自殺者が相次いでいて問題になっている。その原因ははっきりしないのだが、国際競争環境の激化により、工場内での労働者への締め付けが厳しくなっている事が原因かも知れない。
まず賃金が安いことが、直接は自殺につながらない事は認識したい。その工場の賃金が安ければ、辞めて他の工場に行けばいいのだ。何も死ぬ必要は全く無い。そもそも鴻海精密工業の賃金水準は、工場労働としては高い方らしい。むしろ賃金の上昇が、工場の労働環境を悪化させた可能性がある。
ここ数年間、中国労働者の賃金は上昇基調にあり、それによって中国からベトナムやフィリピンなどへ工場を移転する動きが起きている。 左図は中小企業庁の資料で、中国の平均賃金の推移を表す。急激な賃金上昇が起きていることが分かる。2000~2006年は平均で年率14%の上昇が見られ、これはインフレ率を大きく上回る水準だ。
中国にある工場は、高い賃金を保証しつつ収益性を維持するためには、労働生産性をあげないといけない。労働生産性をあげるために、従業員の管理が厳しくなっていることは容易に想像できる。
賃金の上昇が労働生産性を上回れば、その工場の収益性は悪化するため、他の地域に工場を移転されてしまう可能性がある。実際、同じ台湾の真明麗控股(Neo-Neon Holdings)は、2万5000人いた中国の工場の従業員を5000人に減らす一方で、ベトナムの工場の従業員を300人から8000人に増やすと計画を立てている。最低賃金も増加傾向も報道されているが、中国で労働生産性の向上ができない工場は、どんどん中国外へ移転していくだろう。
今度の騒ぎで、鴻海精密工業は900元~1200元の基本給を、最大2000元まで増やすことを決定し、既存のベトナムの工場は、受注を増やしていく一方で、台湾かベトナムで完全自動化された設備の設置を計画した。つまり、中国での賃金を上げる一方で、中国での雇用を減らすようだ。自殺騒動の影響で厳しく従業員を管理できず労働生産性の向上が期待できないなら、雇用減もやむを得ないと判断したのであろう。
中国が安い労働力を提供する経済から、もっと付加価値をつけた何かを提供する経済へ移行を求められている段階であるが、そうは簡単に経済構造の変化は起こせない。高いインフレ率もあるので、しばらくは中国労働者の賃金は上昇基調にあり、中国からの工場移転や、中国の工場内での労働環境の悪化は続くと予想される。
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