2019年4月2日火曜日

稲葉振一郎さん、日本の財政赤字は将来の利益を生まない社会保障関連費によるもので、ほっとけばこれから増大する見込みですよ

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マルクス経済学には詳しいようだし、マクロ経済学にもある程度の情報収集*1を行っている社会学者の稲葉振一郎氏が『日本の可能性を奪う「予算脳」の正体~限られた財源のもと節約ばかり…』と言うエッセイを書いていて、拝読したのでコメントしておきたい。

日本の財政赤字の中身は高齢者人口の増加に対応するための医療・介護などの将来の産出量の増加をもたらさない社会保障関連費の増大*2であり、さらにほっとけばこれから増大する見込みなので、稲葉振一郎氏の示す「将来利益を生むことを見越した投資のため」であればという反緊縮が正当化される条件では、稲葉氏が「予算脳」と揶揄する考え方が正しいことになる。

エッセイを読んでいないと何が何だか分からないと思うので、上の説明しよう。稲葉氏のエッセイでは、均衡財政主義が不合理になる条件を議論していて、財政赤字は

  1. 将来利益を生むことを見越した投資のため
  2. 国債が国内で消化されているの
  3. 完全雇用になく雇用を改善するインフレを起こすため

であれば肯定されるとした上で、日本はインフレではないので完全雇用ではないから財政赤字、累積債務を気にしなくてよいと主張している。必要が並んでいると解釈できると思うが、条件(1)が宣言されたのに考慮されていない。考慮したら結論はひっくり返る。ダムやインフラなど「将来利益を生むことを見越した投資のための」建設国債が増えているわけではないから。リフレ派なのは分かっているが、ちゃんと作文を練ってほしい。

他の細かい部分も駄目出しもしておこう。

1. 作文が練られていない
単語がおかしい。税金や公共料金が高いことを「搾取」にしてしまっているのだが、その割りには市民社会のための歳出が少ないことまで条件に加えないといけないのでは無いであろうか。「予算」と言う単語で、市民社会と言うか国民の厚生を改善する歳出を意味しているように思えるのだが、独裁者が「独自の価値をひたすら追求する」ための歳出でも予算に含まれるものである。
錯乱している部分がある。「国債を増発し、財政出動をはかるべき」と書いた次の文で「市場の動向を見る限り、財政が破滅的に毀損する心配はまだする必要がないが、どうしても赤字財政が気になるのであれば、金融政策に絞ればよい」と言われても困惑すると言うか、赤字財政は無問題と言う話なのだから削除すべき。
「国債にきちんと値段がついて市場で取引されている限り、つまりは買い手がついている限りは、それほど心配をすることはない」とあるのだが、日銀の国債保有率は46%に達しており、金融機関はほぼすべて資金余剰状態で国債の取引は干上がっているから。低金利で低インフレであれば心配しなくてよい…ぐらいにしておこう。
2. マトモな文献を読んでいない疑惑がある
「1970年代の石油ショック以降のスタグフレーションを経て」「1970年代の石油ショック以降の「福祉国家の危機」」とスタグフレーションがオイルショック以後だと思い込んでいるようだが、英国は1960年代後半にはインフレ率が上昇しはじめ、1971年には9.4%にまでなっている*3一方、失業率は僅かだが上昇している*4。オイルショックは1973年。
ベネズエラが資源の枯渇とともに破綻に追い込まれた例になっているのだが、原油産出量減少の理由は投資不足とすることが多いので*5、何か思い込みで作文をしている気がする。少なくとも、何をもって資源枯渇とみなすかの議論がいる。

インフレーションが資本蓄積の阻害になったり*6、貯蓄手段が預金など現金性資産に偏る貧困層の経済状態の悪化になる*7ことが無かったことにされているのも気になるのだが、累積債務が膨大にあるので名目金利の引き上げでインフレ加速を抑制をしようとするとむしろ財政赤字が拡大して状況が悪化する可能性についても議論をして欲しかった。r>gだと…と言うアレである。インフレーションが雇用改善をもたらす作用のみが強調されており、拡張的財政政策が総需要(∝雇用改善)増加とインフレーションをもたらす可能性が無視されているのもちょっと気になった*8。そう言えば期待インフレ率があがって実質金利が下がるような話、しなくてよいのか。

教育学者の本田由紀氏あたりにリフレ派の皆さんが「雨乞い経済成長派」と揶揄されるので、リフレ派の稲葉振一郎氏が「予算脳」と揶揄し返しているのは分かるのだが、もう少し話を練って欲しい。

*1関連記事:リフレ派が書いた学説史「不平等との闘い」

*21991年度に12兆円だった一般会計予算の社会保障関連費は、2018年度に33兆円になった。

*3Historical Inflation Rates in the UK: 1900 - 2019

*4Unemployment in the United Kingdom - Wikipedia

*5関連記事:いまどき財政ファイナンスで高インフレに苦しむベネズエラ

*6インフレによって貨幣保有の機会費用が増加すると投資を諦める場合が出てきたり、こちらは名目金利との兼ね合いだが金融貯蓄が減少して投資量が減少する可能性がある(関連記事:金融抑圧(人為的低金利政策)と言う単語だけ紹介しても)。

*7南米では『インフレの高進により、不動産や金融資産などのインフレ・ヘッジの手段を持つ層と持たない層の格差がさらに広がった』事が知られている。

*8インフレで生産者が景気が良いと錯覚し生産量を増加させるような話もあるので間違いと言うわけではないが、AD-ASモデルから考える方が教科書的な気がする。

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